シャプリアスの死闘(910.M41)

 〈忠誠派〉艦隊がランプタンの不安定な二重太陽系に入ったとき、彼らの怖れていたことがすぐに現実になった。野蛮惑星シャプリアスの軌道上には、回収した廃船と鹵獲した輸送船から寄せ集めて作られた宇宙船から成るごたまぜの大艦隊が遊弋していたのである。アウスペクスによる探査とアウグリー探査機の投入によって明らかになったのは、眼下の惑星上には広大な野営地と訓練場が広がっているということだった。このシャプリアスで、新たな軍隊が〈総統〉の大義の奴隷となった野蛮で堕落した部族戦士たちから作り上げられようとしていたのである。これはルフグト・ヒューロンの意のままに殺戮を行う消耗可能な武器というわけだった。ミルサンは敵艦の大半は何らかの略奪作戦に行って留守であると看破した。これ以上の好機はなかった。この名高いサラマンダーの指揮官は、すばやく大胆な攻撃計画を練り上げた。〈戦闘者〉の連合部隊は、惑星に降下するとただちに〈分離派〉の城塞と訓練場を襲撃した。時を同じくして、海軍護衛艦隊もただちに発信して、可能な限りすみやかに敵の大艦隊の破壊に向かった。
 2つの戦団がドロップポッドとサンダーホーク・ガンシップを発射し、それぞれ担当の戦域に分かれた。ミノタウロスはサラマンダーの同胞が受けたよりもさらに苛烈な抵抗にさらされたが、攻城戦の名手である彼らはアストラル・クロウの鉄の城塞に襲いかかった。サンダーホークが敵の戦列に穴をあけると、ガンシップからアサルト・ターミネーターとデヴァステーターの諸隊が、煙をあげる廃墟に直接降り立った。中隊規模のミノタウロスのその他の兵力はこのブレークポイントのすぐ背後に展開し、敵の反撃によってしたたかに打ち据えられた。大損害を受けながらも、ミノタウロスの先遣隊は廃墟と化した城塞で規律の取れた勇猛さをもって持ちこたえ、襲い来る〈分離派〉に1インチたりとも地歩を譲らなかった。ブロンズカラーの鎧をもったミノタウロスは、戦闘用シールドで身を守りながら、ボルターの砲火をものともせず廃墟要塞を奪還すべく前進してきたアストラル・クロウのリタリエーターと荒々しく激突し、歪んだ金属と粉々に砕けたロックリート素材のただ中で何度もぶつかりあった。
 城塞をめぐって攻防するミノタウロスとアストラル・クロウは数の上では互角であり、塹壕も防備も勇気も戦意も劣るものではなかった。しかし、ミノタウロスは攻城戦の達人であり、この血塗られた白兵戦の地獄はまさしく、彼らが喜んで戦うたぐいの戦場に他ならなかった。ランドレイダーとシージ・ドレッドノートの装甲部隊に率いられたアストラル・クロウ戦団はミノタウロスの攻撃第二波によって釘付けにされた。エンコミ教戒官はジャンプパックを装備した精鋭先遣分隊を自ら率いて敵の副次的な城塞を強襲して皆殺しにした。包囲分断されたアストラル・クロウは殲滅された。ゆっくりとして血塗られた進撃ではあったものの、〈忠誠派〉の進軍はついに〈分離派〉は阻止できなかったのである。アストラル・クロウは全ての城塞でミノタウロスに多大な出血を強いたものの、城塞はひとつまたひとつと陥落し、とうとう勝利はミノタウロスのものとなった。
 一方その頃、サラマンダーの大部隊が都市ほどの大きさのある訓練場の中心部に降下した。名高きこの戦団で最強の戦士たちであるサラマンダー・ファイアドレイク・ターミネーター部隊が、カエスタス型アサルトラムの一翼に搭乗して、〈分離派〉の着陸地点を攻撃する別働隊の任務をになった。最初の一撃で、カエスタスの装甲衝角とマグナ・メルタ砲が地上の敵輸送艇を襲い、その船体を引き裂き、燃料タンクに着火した。ファイアドレイク隊が揚陸艇から黒煙をあげるただ中に飛び降りると、混乱と破壊はただちに大虐殺にかわった。彼らのストームボルターとサイクロンミサイルランチャーは慌てふためく敵が抵抗を始める前に全てを一掃したのである。他の場所では、ミルサン隊長率いるサラマンダー主力部隊が敵の中心部、訓練場の中央にある円環状の防御施設に直接降下を敢行した。完全に包囲されたサラマンダー部隊はわずかに百人のスペースマリーン、敵は野蛮人とミュータント、そして近隣の数十の残虐な住人から成っており、その人数は千倍にも達した。
 他の戦士であればもはや自殺としかいえない状況であったが、彼らヴァルカンの息子たちは、この劣勢をものともしなかった。サラマンダーの強襲によって突然の憤怒と混乱に陥り、統率するものもなく右往左往する蛮族の大群は反応が遅れ、ようやく攻撃に転じたときには猛烈な火力の壁に直面することになった。ホワールウィンド自走砲、デストラクター型プレデター戦車、そして整然としたサラマンダーの隊列が超近距離で一斉射撃を放つと、わずか数分で何千人もの異端者が斃れていった。まもなく破壊された訓練場の地面にはけいれんする肉体の山々がそびえたった。大群が態勢をたてなおしたのは、血に塗れた鋼の鎧を身にまとうアストラル・クロウたちが戦場にかけつけ叱咤してからであった。サラマンダーたちは、汚らしい異端者の大群の中で、リタリエイター・スカッドの隊形をとる真の敵たちを見つけ出すと、容赦の無い猛砲撃を継続した。ミルサンは強襲計画の第二段階に移り、ほめたたえられるアキレス型ランドレイダー隊がアストラル・クロウの戦列に直接吶喊した。戦車はサンダーファイア砲とマルチメルタ砲を放ち、大群の隊列に巨大な穴をあけていった。ランドレイダーはアストラル・クロウの中央を撃砕すると、左右に分かれて〈古きもの〉たちの憤怒を解き放った。
 おそるべき伝説にうたわれる〈鉄竜〉ブレイアース・アッシュマントに率いられた六機のドレッドノートがアストラル・クロウの戦列に襲いかかり、粉砕し、浄化の炎で焼き払った。圧倒され、劣勢に追い詰められながらも、アストラル・クロウは容易に屈せず、栄光ある戦闘で討ち死にしながらも、サラマンダーの〈古きもの〉の二機を倒した。アストラル・クロウの最後の一人であるセンチュリオンは、〈鉄竜〉によって真っ二つに引き裂かれながらも末期の息で〈総統〉の名を呼び、その死骸は打ち捨てられた。主人たちが全滅すると、大群は潰走した。何万人もが背後から迫る火と死の王者たちから逃れようと無我夢中で逃げだし、その中で何百人もがさらに絶命した。
 壊滅した城塞の地下奥深くで、ミノタウロスとサラマンダーは、アストラル・クロウが守ろうとしていた秘密を発見した。それは、〈異端技術〉の研究所を擁する広大な天然洞窟網であった。これらは大量に戦闘薬物を製造し、原始的な遺伝子改造と人体実験をシャプリアスの野蛮な戦士たちだけでなく、〈渦〉東部の襲撃で捕獲された〈帝国〉人の捕虜たちに対しても行っていたのである。そして最下層で〈総統兵団〉の〈検屍官〉アポセカリーの一団によって守られていたのは、戦死した〈忠誠派〉スペースマリーンから強奪された遺伝種子の山であった。
 軌道上の戦いも地上と同じように〈忠誠派〉の優勢に推移したが、代償は大きかった。にわか作りの大艦隊は燃えさかる残骸になりはてたが、艦隊を守るために隠されていた兵器プラットフォームによって〈栄誉の焚火〉は損害をこうむり、ソード型フリゲート〈エポナ〉は爆沈した。戦闘開始から十一標準日が過ぎようとするころには、〈火の賜物〉はランプタン星系を離れて、〈忠誠派〉の支配宙域への危険な航海に乗り出した。これには千人もの解放奴隷を収容した〈帝国〉海軍の軽巡洋艦が随伴しただけではなく、〈栄誉の焚火〉そのものの内奥部に、地底から回収された貴重きわまる遺伝種子がおさめられていたのである。〈火の賜物〉は大勝利を宣言し、もし放置すれば〈帝国〉に非常な危険をもたらした〈総統〉の謀略を暴露し転覆した。しかし、〈忠誠派〉大本営も、ランプタンへの攻撃が、バダブ戦争の行く末を予想外に変えてしまう事件につながるとは全く思っていなかった。

(続く)

バダブ戦争(承前)

コルキラの虐殺(910.M41)

 これはバダブ戦争の「失われた物語」であり、真実は今後も決して明らかにはならないだろう。〈帝国〉の記録では〈コルキラの虐殺〉と記されているこの事件は、910.M41に〈帝国〉海軍の巡邏によって見いだされた。密輸商人の拠点の廃墟が辺境惑星コルキラ第二惑星の塵の荒野で発見された。その基地の内部には、人類史上まれに見る大虐殺と破壊の悪夢めいた光景が広がっていた。エグゼキューショナー戦団とカーチャロドン戦団の中隊未満の兵力どうしが死闘を繰り広げたのである。いずれもその野蛮さと容赦なさで悪名高い両戦団は互いに全滅するまで戦い続けた。彼らの周囲で基地はずたずたに破壊され、かつての住人はばらばらの塵となりはてた。両軍ののこした死骸はおそるべき傷にのたうちまわったことを示しており、切断された手足やすさまじい怪我は〈戦闘者〉ですら死に至るものであったし、何人かは内臓をとびちらせて組み合ったまま、最期の力をふりしぼって敵と刺し違えたまま死んでいた。勝利の凱歌をあげた生き残りがどちらかの戦団にいたかどうかは定かではなお。コルキラ第二惑星で起きたことを語る生き残りについては、どちらの戦団も記録していないからである。

鉄火の激突(910.M41)

 910.M41の中頃、〈渦圏〉東部で海賊の活動が活発化した。〈忠誠派〉大本営の間では、これは少なくとも一個のアストラル・クロウ部隊が何らかの方法でバダブ星区の封鎖をくぐりぬけて、〈渦〉辺縁部で作戦行動を行っているのだと考えられた。〈帝国〉海軍護衛艦隊の索敵戦隊がこうした襲撃を鎮圧するために派遣された。〈分離派〉がこの機に乗じて〈忠誠派〉の側面に新たな戦線を構築することを防ぐためである。辺境惑星ルークにおいて、海賊の痕跡が発見された。ここは〈渦〉の内部で〈帝国〉のエージェントを支援する気のある数少ない惑星のひとつであり、その住人は熱心な〈奉納派〉(Oblationist)から成っていた。彼らは〈忠誠派〉大本営に、近隣の星系でアストラル・クロウ戦団の打撃巡洋艦ヒルカニア〉に率いられた人類の海賊船団によって奴隷獲得のための襲撃が活発になっていることを報告した。こうした海賊船団の攻撃パターンは〈歪み〉に残された残響をたどってランプスタン星系、そしてシャプリアルとスカルフェルという双子の野蛮惑星まで追跡された。強力な敵勢力がこの地点に終結していることを予想した〈帝国〉海軍戦隊は、再編成と補給のために撤退し、増援を要請した。
 その頃、〈渦圏〉北部ではカーチャロドン戦団がトランキリティー線駅の最終段階の実行に忙殺されていた。南部ではミノタウロスとサンズ・オブ・メデューサが帝国防衛軍懲罰連隊の支援を受けながら、〈総統兵団〉が頑強に抵抗していたバダブ星区辺縁の惑星アイシンを攻撃していた。総司令官クランはセーガン星系に駐留していた自身のレッド・スコーピオン戦団と新たに増援を得たエクソシスト戦団を召集して、パイレウスにある〈歪み〉の戦略的結節点への攻撃を準備した。これは重要な目標であり、バダブ星区への入口と見なされていたのである。開戦以来、〈忠誠派〉の兵力は多大な損害を受けてきており、それまで〈忠誠派〉の大義を奉じて戦ったスペースマリーン戦団の多くは撤退していた。ハウリンググリフォンやマリーンズ・エラントはその損害の大きさから引き上げており、またノヴァマリーンやファイア・エンジェルは独自の理由でこの戦場を離れていった。要するに、〈忠誠派〉の軍勢はスペースマリーン中隊の増援が到着していたものの、戦線全体に広がってしまっており、総司令官カルブ・クランは多正面で戦って〈総統〉が企図するような消耗戦に引きずり込まれることはできなかったのである。
 味方のスペースマリーンの指揮官たちとの協議の末、サラマンダー戦団の老練の戦士ペラル・ミルサンがランプタン星系での海賊の一件について解決策を提示した。自身の戦力を率いてランプタンを急襲したサラマンダーたちは、奇襲を利用して太古からのオンナ・ノストロマ戦術を用いて、強力な大戦艦〈栄誉の焚火〉の力をたたきつけ、敵に決定的な打撃を与えた。軍議で超然として謎めいたミノタウロス戦団の代表を務めるイヴァヌス・エンコミ教戒師は、この任務におけるサラマンダーを援護するために、自身の親衛隊と集められるかぎりの軍勢を率いて駆けつけることを提案した。これが許可されると、〈火の賜物〉と名づけられた攻撃部隊に、さらに〈帝国〉海軍軽巡洋艦およびフリゲート戦隊の増援がつけられた。この部隊はただちに出発し、戦場で敵とまみえるためにランプタン星系に向かった。

〈方舟〉アルタンザール Altansar


 アルタンザールは、エルダーの小規模な〈方舟〉である。〈エルダーの失墜〉を生き残ったが〈恐怖の眼〉に囚われ、〈不死鳥の将〉モウガン・ラーだけが逃げのびた。モウガン・ラーの故郷が〈恐怖の眼〉に呑まれてから地球時間で一万年の後、999.M41に〈強奪者〉アバドンが〈眼〉の奥底から第十三次〈黒き征戦〉を押し出した。悪夢の領域が渾沌の兵団を物質宇宙に吐き出したあとには、大きく開いた〈歪み〉の亀裂が残された。こうして〈眼〉がまだ開いている間に、モウガン・ラーは同胞の生き残りを見つけるべく、悪意に満ちた辺獄への危険な探索を敢行した。やがてモウガン・ラーは故郷たる〈方舟〉を発見し、生きのびていた者たちを〈恐怖の眼〉から脱出させると、共に渾沌の軍勢に戦いを挑んだ。しかしながら、この失われていた同族の帰還に対して、他の〈方舟〉から歓待の声はあがらなかった。謎に包まれたアルタンザールのエルダーはおおっぴらな疑惑と敵意を向けられた。なぜなら、一万年にもわたって渾沌の猛威から無傷なエルダーなどありえないと思われたからである。

 アルタンザールは、〈恐怖の眼〉に関係が深いことから、〈方舟〉ウルスェの姉妹船として知られている。〈方舟〉アルタンザールが用いる世界聖印は「断たれた鎖」と呼ばれている。クルノスとイスハがカインの牢獄から逃げ出したというエルダーの神話に依っているのみならず、ヴァールを金床に縛り付けていた鎖がちぎられた話も示している。このシンボルはアルタンザールが〈恐怖の眼〉から謎めいた脱出を果たしたことを思うとき意味深長である。世界聖印の上に置かれた「毀れた永劫の輪」は、永遠の地獄からかろうじて脱出を果たして以来、新たな紋章としてこの〈方舟〉に採用されている。

バダブ戦争(承前)

ゲイレン制圧

 910.M41の初頭は、バダブ戦争を恐怖の結末に導く来たるべき嵐の前の最後の静けさであった。〈忠誠派〉陣営の戦団の多くは相当な損害を被っており、今やより暗い噂の多いスペースマリーン戦団に交替しようとしていた。〈渦圏〉はまもなくその長い激動の歴史の中でも類を見ないほどの虐殺に見舞われることになる。六年の長きにわたって孤立してきたゲイレン星系は幾度も争奪が繰り返された至宝であった。ゲイレン星系はファイア・ホーク戦団と〈分離派〉連合軍との間で戦われた大戦闘の場所であり、双方に多大な犠牲が出た上、ゲイレン第二惑星の生命維持ドームが荒廃した結果、隣の辺境惑星ゲイレン第六惑星に大量難民が押し寄せた経緯があった。
 〈軍令官〉カルブ・クランの直接指揮のもと、〈忠誠派〉の軍勢はゲイレン第六惑星の秩序を回復し、将来の禍根を摘むために針路を変えた。〈異端審問庁特使〉フレインの助手である異端審問官クラムナー率いる〈粛正の団〉部隊に随伴されたこの作戦の唯一の条件は、惑星が充分な中核人口を保持して居住可能な状態にとどめ、今後も〈帝国〉の戦争遂行に協力できるようにすること、だけであった。惑星奪還計画はこの条件に沿って、方面軍司令官であるサンズ・オブ・メデューサの“鉄の戦士長”ヴェイランド・カルの指示のもと、策定された。サンズ・オブ・メデューサはゲイレン第六惑星オールド・シティ郊外の上陸予定地点周辺に軌道爆撃を実行。続いて三個中隊がオールド・シティ外縁に着陸して包囲し、あらゆる抵抗を撃砕した。
 三昼夜の間に、サンズ・オブ・メデューサは補給物資と〈戦闘者〉の増援を降下させて、新たな要塞の建築に着手した。四日目の朝、生き残った数百万人の住人の間に恐怖が広がった。この恐怖はサンズ・オブ・メデューサが計算の上でよく用いる戦術である。警告もなく、戦団は大規模な機甲部隊の強襲を開始した。これはライノ、レイザーバック、ランドレイダー、ドレッドノートで構成され、空にはランドスピーダーが飛び交った。エメラルド色の鎧をまとった死神の紋章の横には、異端審問庁の真紅に彩られたキメラとリプレッサーが付き従った。車両の拡声器から異端審問官がゲイレン第六惑星全住民の即時降伏と即決裁判を要求した。住民の一部は無謀にも〈皇帝陛下の憤怒〉の体現に襲いかかろうとしたが、サンズ・オブ・メデューサに惨殺され、またある者たちは陣地に籠もったり都市から逃げだそうとしたりした。そういった人々は巡回するランドスピーダーとヴァルチャー・ガンシップによって容赦なく殺害された。市内で抵抗を試みた者は包囲殲滅された。号泣する生存者たちは異端審問庁の部隊に連行されて、〈帝国〉の上陸地点に築かれた異端審問庁の要塞で尋問と裁判の運命を待つことになった。
 オールド・シティは、サンズ・オブ・メデューサの攻撃開始から56時間で〈帝国〉に奪回された。まもなく虐殺の報せがゲイレン第六惑星全体に広がり、惑星全体に恐怖のとばりが降りた。そして、何百万人という現地人と難民が、恐怖の中で生きるよりも死刑判決を選んで、同様に降伏した。オールド・シティの廃墟はゲイレン第六惑星の住民を幽閉・矯正するための檻として再建された。全体として、ゲイレン戦役は成功をおさめた。オールド・シティ住民の大半は殺戮されたが、最終的な死者数は長期にわたる惑星規模の消耗戦に比べれば微々たるものだった。驚くべきことに、〈粛正の団〉は慈悲深かった。惑星住民の大多数にその罪と違反への罰として、終身懲役を課したのである。その結果、帝国兵務局は〈渦圏〉の屈強な住人から多数の懲罰兵団を新設することができたのである。それ以外の住民はゲイレン第六惑星での労働にたずさわるか、〈渦圏〉の他地域に送り込まれて復興事業に従事した。サンズ・オブ・メデューサは直後にゲイレン第六惑星を離れ、以後この星は数世代にわたって〈帝国〉のために懲役を行う刑務所惑星となったのである。

深海の鮮血(910.M41)

 910.M41に予告もなく到着した、砲撃痕だらけの正体不明のスペースマリーン打撃巡洋艦は、太古の、しかしまだ有効な〈帝国〉識別プロトコルで自身を認証した。その艦名は〈脅かす巨獣〉(レヴィタス・ヴェクス)、そしてその到来は後にバダブ戦争における流血と蛮行の同義語となる名前を持つ軍勢の前触れであった。正体不明のスペースマリーン軍は〈忠誠派〉陣営への参戦を表明して、地球からの直接の要請に応えたのだと主張した。彼らが自ら名乗った戦団名は古代上位ゴシック語で「カーチャドロンス・アストラ」、または単にカーチャドロン。下位ゴシック語では〈宇宙の大鮫〉を意味する言葉であった。そして、正式な〈忠誠派〉への受け入れと戦闘区域に入って血を流す資格を要求した。カーチャドロンの指揮官タイベロスは到着後ただちに、バダブ戦争を遂行する〈異端審問庁特使〉のもとに参じて、この戦団が大昔の〈地球至高卿〉と異端審問官によって与えられた権利と称号を認められていることを証明する勅許状を提示した。タイベロスはサイキック探査と遺伝子サンプリング調査にも応じた。〈異端審問庁特使〉はカーチャロドンを承認した。総司令官であるレッド・スコーピオン戦団のカルブ・クラン〈軍令長〉も、カーチャドロンが戦列に加わることを認めたが、それでも彼らが〈帝国〉外を長らく航海してきたことによる忠誠心の揺らぎと〈戦いの聖典〉からの逸脱への憂慮を消せなかった。サメが血に引き寄せられるように、バダブ戦争が最も血塗られた段階に入ったまさにその時にやってきたカーチャドロンの出現は、多くの者に疑念を抱かせずにはいなかった。

トランキリティー戦役(910.M41)

 910.M41、マンティス・ウォリアー戦団の兵力は大きく減少していたが、カルブ・クランは、〈忠誠派〉がバダブ星区に全力侵攻するときに、側面に彼らを残したまま進む愚を充分に承知していた。〈軍令長〉はすでに、エンディミオン星団への新たな攻勢を実施するべく部隊の配置変更を行っていたが、カーチャドロンの到着に伴って、総司令官は想定外の戦力を手にすることになった。そこで、彼らの野蛮な獰猛さをマンティス・ウォリアーとその領地に向けて解放することにした。カーチャドロン艦隊は銀河平面上でシガード星系の直上で〈歪み〉を脱けた。それはシガードの荒れ狂う膨張太陽に危険なほど近い距離であり、太陽フレアによって自分たちの存在を隠蔽したのである。数十の打撃部隊に分かれた灰色のスペースマリーンたちは、シガード星系をその激怒のはけ口の最初の生け贄として、無数の小惑星帯コロニーや要塞、船舶部族を荒廃させていった。カーチャドロンは星系全体で荒れ狂い、何千年もかけて築き上げられ、異種族や海賊の脅威に耐え抜いてきたあらゆるものをわずか数日で滅ぼし去った。この荒っぽい作戦の後、〈帝国〉海軍の偵察艦は、星系全体が廃墟と化しており、ヴォクス通信には死者と沈没船からの不気味な不協和音が響くばかりであると報告した。また、カーチャドロンは装備、資源、そして人間そのものまでも略奪と回収の対象にした。後にいくつかの権威筋が結論づけたことに、カーチャドロンの最初の標的に豊かな宇宙コロニーとインフラを備えていたシガードが選ばれたのは、そこがマンティス・ウォリアーと長いつながりがあったというだけでなく、外なる暗闇での知られざる長き航海を経てきたカーチャドロンが、戦争に参加するにあたって回復するために必要な報酬を求めていたからであった。
 カーチャドロンはマンティス・ウォリアーを擁すると言われている星団内の惑星を計画的に滅亡させ、この〈分離派〉戦団はこうした星々を守るために兵力を集中させなければならず、〈忠誠派〉に対する一撃離脱戦法を使えなくなった。この戦略によって、カーチャドロンは敵を探して星団じゅうを探し回ったり、地の利を得て待ち受ける敵に立ち向かったりする必要から解放された。まず、カーチャドロンは封建惑星アイブリスを荒廃させ、そのインフラと支配層を滅ぼすと、続いて惑星上に散在する集落と遊牧民を夜襲によって虐殺した。こうしてアイブリスはこの惨劇におびえきったわずかな生き残りしかいない荒野と化した。この野蛮な戦団は次に汚染された工業惑星エンディミオン・プライムを襲撃した。ここではファイア・エンジェル戦団の小部隊が、荒れ果てた工業施設群の間にマンティス・ウォリアーに率いられた反乱軍を追い詰めていた。カーチャドロンはファイア・エンジェルの存在を意に介せず軌道爆撃を行い、何百もの灰色の降下ポッドが塵芥に覆われた惑星に降りたち、大虐殺が行われた。
 この惑星を守る誓いを立てていたマンティス・ウォリアーは反応せざるをえず、カーチャドロンの蛮行を止めるためにエンディミオンの救援に向かった。マンティス・ウォリアーの戦闘技術はカーチャドロンに劣るものではなかったが、あまりにも数が少なく、戦いの趨勢を変えることはできなかった。首席ライブラリアンのアハズラ・レドスに率いられたマンティス・ウォリアーは退却を拒んでこの惑星を守るために死んでいった。それはカーチャドロンの指導者タイベロスの予見したとおりであった。カーチャドロンは惑星クスサルとラーギトールでもこのやり方を繰り返し、続いてトランキリティー星系の双子惑星そのものにも襲いかかった。どの戦いでもマンティス・ウォリアーは包囲された惑星への救援に駆けつけなければならず、有効な戦力をどんどん削られていった。今や疲弊しきったこの戦団は有力な戦闘単位としては存在を停止した。しかしそれには大きな代償が支払われていた。このトランキリティー戦役の結果、甚大な損害を被ったファイア・エンジェル戦団はこの戦争からの撤収を許可された。この件が、ファイア・エンジェルがカーチャドロンに対して憤激した大きな理由である。トランキリティー戦役の間を通して、両戦団はとるべき手段について何度も衝突して、大きな禍根を残したのだった。味方の行為に驚愕したファイア・エンジェルは名誉をもって残存勢力とともに撤収し、本拠地惑星で大損害を受けた戦団の回復に努めたのである。
 エンディミオン星団の脅威を制圧したカーチャドロンは再配置され、その艦隊は〈忠誠派〉の後方の警邏にまわされた。バダブ星団への侵攻に先立つ平定はミノタウロスとレッド・スコーピオン戦団に任された。エンディミオン星団の住民にとって不幸なことに、彼らの惑星に災厄が襲うのはこれで終わりではなかった。というのも、カーチャドロンは後年、戻ってきて彼らに蛮行のとどめをさすからである。

(続く)