Wローズのレビュー

ローズ・トゥ・ロード (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

ローズ・トゥ・ロード (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

 Wローズこと新版ローズ・トゥ・ロードは、これまでのロールプレイング・ゲームの作り方と遊び方からかなり異なるアプローチのゲームになっています。いみじくも本文最初の一文が「言葉を組み合わせ、みんなで物語を作っていく遊びです」とつづられていますね。それに続いて冒頭にはこのゲームがどんなゲームかが端的に述べられています。

  • プレイヤーは幻想世界を旅する魔法使いを自分の分身/手駒(PC)とします。
  • PCの[旅]には混沌の呪縛による歪みが立ちはだかり、それを癒すことを期待されています。しかし絶対的にその使命に縛られているわけではなく、ただ気ままに、ふらふら[旅]するのも自由です。
  • 各PCは[旅]を通じ最大で14の[風景]を身に帯び、13の[風景]を心の中庭=[ローズガーデン]に宿します。
  • これらの[風景]をもって出会った存在(ビーイング)と[響き合い]し、また[魔法風景]を放つなどして、[旅]の状況に対応していきます。
  • 各[旅]の終わりには、最大最強の魔法として、必ず、自分が身に帯びた[真の風景]をひとつ解放し、自らは解放したその身に「透色」(すきいろ)を宿していきます。
  • つまり[旅]をひとつ終えるごとに、PCが宿した風景は自分の旅した場所の風景へと写し映され、自身は少しずつ風のように透けていきます。
  • そんな風にPCは[旅]を通じて、自分の歩んだ[旅]そのもの、そして、通り過ぎた[世界]そのものへなっていきます。

 使用するのは筆記用具の他、ランダマイザとしてのトランプ一式とPCの所在を示すコマ、定められたシート類(PCシートの他、PCが旅する中で出会った生物や状況を表現する汎用存在シート、使用済みの言葉を書きとめる[旅夢の影]シートなど)、それから[言葉決め]に用いるための任意の本(ルールブック附属の言葉決め表でもよい)です。

言葉決め

 Wローズの根幹であるシステムが「言葉決め」です。これはランダムに一語か二語の言葉を抽出する方法で、ソースとしてはルールブック附属の「言葉決め表」か、あるいは参加者が任意に選んだ200ページ以上の文章主体の書籍(漫画や辞書は不適)を用います。
 手順は簡単です。ぱっと適当な見開きページを開いて、さっとどこかを指さします。抜き出すのが一語だけなら左右どちらかのページを、二語なら左右両方のページを左右の指で指します。「言葉決め表」なら指したマスとその左右計3マスの中から、書籍なら指した行の中から、任意に言葉を抜き出します。
 二語抜き出したり、抜き出した一語と別の表等から持ってきた一語を使ったりする場合は、それらを好きなように助詞助動詞等を使って連結します。ここらへんは大枠の意味を変えないようにすれば柔軟に変化させてもよいとのことです。
 以上が「言葉決め」ルールです。

アムンマルバンダ(逍遙舞人)

 PCは魔法使いです。それも、自分の旅を通じて言葉を拾い集めて物語をつむぐことで、世界に「より見えやすい風景」を与えていく魔法使いです。
 旅するPCの前には、必ず解決し鎮めなければならない「混沌の呪縛」が立ちはだかります。この混沌はさまざまな問題や歪みとして立ち現れます。たとえばルールブック中のリプレイでは「強欲な商人が聖獣である大亀を乱獲したために静謐を乱された湖」という形で現れています。
 PCはマップの上を自由に旅し、その先々で遭遇するイベントをプレイヤーが自由に物語る(これを[語り]と呼びます)中で[風景言葉]を集め、それを「変異混成」(後述)させることで、「混沌の呪縛」を払うための[魔法風景]を作りあげていきます。そして完成した魔法を「混沌の呪縛」の発生地で放つことで呪縛を払い、最後に自分の存在の一部である[真の風景]を放って「かつての良き地」へと癒します。そうしてひとつの旅に終止符が打たれ、また別の旅へとアムンマルバンダはさすらっていきます。

PC

 PCは「PCシート」と「ローズガーデン」の2枚のシートで表現されます。前者はPCのステータスを表すシートで、後者は旅のあいだに[魔法風景]を作りあげるために集めた[風景言葉]を書き入れていくシートです。ここでは前者の内容をざっと紹介します。
 アムンマルバンダであるPCは、まず「魂の故郷」を持ちます。これはユルセルームのいろいろな地方で表されます。そして選んだ地方にはそこに見合った[風景言葉]が列挙されています。たとえば、ストラディウムなら「堅固なる城壁」「翻る大旗」「商いの呼び声」「水夫のかけ声」等々。そのうちから一語を選び、さらに「言葉決め」によって決めた一語を連結して、あわせて二語でPCの本質である“雰囲気”を表す[総合ステータス]の[真の風景]を作り出します。たとえば、

  • 「水夫のかけ声」+「真夜中」=「真夜中の水夫のかけ声」(のような)雰囲気

といったように。
 続いて、計13種類ある[様相](身体部位)のうち3つについて、それぞれ「言葉決め」によって2語を選んで連結し、その部位の[真の風景]を作り出します。たとえば、

  • 「子供」+「感謝」=「子供っぽい感謝」(を宿す)眼差し
  • 「リュンクス」+「毛」=「リュンクスの毛」(を帯びた)耳
  • 「ひそやか」+「古歌」=「ひそやかな古歌」(のような)声色

といったように。
 同じようにして、通り名も決めます。この名前がゲーム中でのPCの呼び名になります。

  • 「飲み過ぎ」+「料理女」=「飲み過ぎた料理女」

 さらにローズおなじみのクステ(強運時と弱運時の状況)をランダムに決めればPC作成は終了です。あとはプレイヤーがこれらをもとに想像力をふくらませていきます。

ゲームの進め方

 Wローズではゲームマスターのことを[風読み]と呼びますが、[風読み]がいないプレイが基本とされています。つまり、参加者全員がひとりずつPCを持ち、「言葉決め」と表類を使って生み出した言葉を使って、どんどん物語っていくことで、マスターの誘導なしにゲームを進めていくようになっています。
 「アムンマルバンダ」の項でも紹介しましたが、Wローズの1セッションの進め方は次のようになっています。以下p.25より引用。

  1. プロローグ:誰かひとりがはじまりの[語り]を自由に行ってゲームを開始します。やりにくいならp.26に用意してある例をそのまま使ってかまわないでしょう。
  2. 弱点言葉:各PCは「言葉決め/2語連結」で自分の[弱点言葉]を決めます。さらに、これに「だが、その○○はわからない」という文章を添えて[生まれる前に見た夢]を決めます。この言葉は、旅するPCの強い武器とも弱みともなります。
  3. 冒険マップシートを用意します。ランダムに出発地点を決めて旅の一行を表すコマを置きます。共有ローズガーデン・シートを用意します。日と時間の経過を表すコマを旅の開始時間(夜以外)に置きます。
  4. オープニングイベント:プロローグを語った人が最初のイベントを[語り]ます。続いて各PCは「言葉決め/2語連結」で自分の空白の[様相]のうちいずれかひとつの[真の風景]を決める。
  5. 今回の旅で使える[たぐりの魔法]の種類をランダムに決めます。[たぐりの魔法]は強力な魔法ですが、使える回数はわずかです。
  6. シナリオの背景を自動生成:まず最終目的地である「混沌の呪縛発生地」をランダムに決めます。続いて「言葉決め」を用いて、その地点で呪縛によってどんな状況に変わっているかの[語り]を行います。これが今回解決すべきクエストの内容になります。さらに、各PCは今回の旅について自分が得ていた予兆=「虫の知らせ」を「言葉決め/2語連結」を用いて決めます。「虫の知らせ」はクエストの原因に関わるキーワードです。実際にどんな原因なのかは、旅の1日目の夜に明らかにされます。
  7. 旅を進める:ルールで決まっている「旅人のできること」(p.47-8)にしたがって、順番にPCは冒険マップ上を好きに旅します。全員に手番がまわったら時刻が次に進みます(朝→昼→夕→夜)。夜が終わったら翌日に進みます。朝昼夕にできることは共通ですが、夜だけはクエスト解決をうながす特別な手順がふまれます。
    • 1日目の夜:「虫の知らせ」の[語り]を行い、クエストの原因が明らかになります。また、[風便り]という手順を行ってクエストの解決策である[神託の魔法言葉]を決定します。
      • 風便り:1名の送り手を決め、それ以外は受け手となります。送り手は「言葉決め/2語連結」でクエストに関連しそうな語句を作成。うち1語を隠し、1語を受け手に公開します。そして、受け手は数度の質疑応答を送り手と行うことで、隠された1語を当てようとします。最後に、回答として提出された言葉と、正解の言葉を全て組み合わせて[神託の魔法言葉]を作ります。正解が多ければそれだけ短い言葉になるので、集めやすく作りやすくなるわけです。
    • 冒険マップ上の各地点ではランダムにイベントが発生します。イベントは「存在との遭遇」「印象的風景との遭遇」「印象的スポットとの遭遇」に分けられ、さらに遭遇する「存在」は脅威となる“反発的”存在とそうではない“非反発的”存在に分かれます。「存在」はそのまま何らかの生物や超自然存在であったり、あるいは大自然の猛威や危険な場所などといった無生物・状況であったりもします。要するにPCが旅先で交流/干渉するあらゆるものをWローズでは「存在」として汎用存在シートという一枚のシートで表します。
    • 朝昼夕のイベントや夜の夢見を通じて、次第にローズガーデンに[風景言葉]が集まってきます。こうした[風景言葉]は夜にPC皆で共有ローズガーデン・シートを使って「変異混成」し、[魔法風景]に仕立てていきます(夢見舞い)。最終的な目標は、旅の1日目の夜に明らかになった[神託の魔法風景]を完成させることです。
    • 変異混成:p.56-7参照。各人のローズガーデンから共有ローズガーデンに供出された[風景言葉]を分解、変化させて新たな[魔法風景]を作り出します。手段は三種類。(1)変質:カタカナ→ひらがな、同音異字にする等、(2)分解:文字単位でばらばらにする、(3)混成:言葉を交ぜて別の言葉にする。
  8. 混沌の呪縛を払う:定められた[神託の魔法風景]を夢見舞いによって完成させたら、「混沌の呪縛発生地」へと向かいます。ここでPCを待ち受けるのは[塞ぐもの]と呼ばれる反発的存在です。たとえば、リプレイ中では亀を殺して湖を汚した強欲な商人が[塞ぐもの]として立ちはだかります。[神託の魔法風景]も用いながら[塞ぐもの]をしりぞけます。
  9. エピローグ:最後にPCは自分の[真の風景]をひとつ選んで呪縛の地に放ち、エピローグの[語り]を行います。これで状況は好転し、今回の旅は終幕となります。ここで放たれた[真の風景]の身体部位は[透色]となって世界に溶けていきます。

魔法風景

 アムンマルバンダは、夜の夢見舞いで変異混成によって作り出された[魔法風景]を、旅で遭遇する「存在」に放って、[表の風景]として相手の[様相](部位)に書き込むことができます。
 PCも「存在」も、自身のステータスである[様相]は「風景+部位」で表されます。たとえば、

  • 「子供っぽい感謝」(を宿す)眼差し

というように。しかし、「風景」には表と真の二種類があり、本来の性質である[真の風景]は、何らかの理由で[表の風景]に上書きされてしまうことがあります。上書きされている間は、[表の風景]がその[様相]の風景としてはたらきます。たとえば、上記の例の「眼差し」が「疑わしさ」という[表の風景]で上書きされてしまうと、以後、何らかの手段で[表の風景]が取り除かれないかぎり、

  • 「疑わしさ」(を宿す)眼差し

という[様相]になってしまうわけです。
 そういうわけで、[魔法風景]を相手に放つことで、相手の存在の本質を書き換えてしまうことができるのです。これがWローズにおける“魔法”です。あらゆる「存在」は全て[魔法風景]を放つことができるのですが、そのほとんどが背景や性質によって無意識に決まっているのに対して、アムンマルバンダは変異混成の術で自在に[魔法風景]を作り出せるがゆえに“魔法使い”といえるのです。PCは[魔法風景]を放って[表の風景]を上書きしていくことで、立ちふさがる困難をしりぞけ、混沌の呪縛の原因を打ち払っていきます。

  • 響き合い:ただし、[魔法風景]を放って「存在」の風景を書き換えるには、ひとつ前提条件を満たさねばなりません。それは、自分が持つ[真の風景]または[生まれる前に見た夢](=弱点言葉)と、ねらう相手の[様相]との間に[響き合い要素]と呼ばれる共通項がなければなりません。(1)同じ言葉がある。(2)クステの力。(3)感覚の上で共通する言葉がある。(4)同じ擬態語で表せる。等々。なお旅を重ねればそれだけ[響き合い要素]は多くなっていきます。

旅夢の影

 放ち終わった[魔法風景]の言葉は、「旅夢の影」シートに[真の風景]として書きとめられます。そしてそれが(ひとつを除いて)全て埋まると、「旅夢の影」は因縁深い「反発的存在」となってPCの前に登場できるようになります。登場タイミングは(風読みがいない場合)ランダムに決まってきます。「旅夢の影」は、他の「存在」とはちがってPCたちアムンマルバンダとほぼ同じシートを持ち、同じ行動をとることができます。宿敵や己のシャドウとして出現する特徴的な「存在」といえます。

とりあえずここまで

 以上、ざっと「ルール部分」を紹介してみました。文章にするとごちゃごちゃしているようなんですが、シート類と表類が完備してあるので、「言葉決め」で生まれてきた語句と今までにシートに書きとめられた語句とを見て、三題噺をみんなで連歌よろしく続けていければオーケーなんだと思います。まあ、適性はかなり問われるとは思いますが、無理にファンタジックにしようとしなくても卓の流れにあわせてやっていけばいいんじゃないでしょうか。それこそ「ワンス・アポン・ア・タイム」くらいの気軽さで。