クランブック:バアリ

ふと思い立って読み返す。というか、確か買ったときは斜め読みしかしてない。

  • 神の「光あれ」のせいで地上から追われて地下に眠った“子”(the Children)。
  • メソポタミアに住んでいた“最初の部族”(the First Tribe)が、井戸掘りの最中、“子”の一体を偶然に掘り出してしまい、その存在を知る。そして夢見るままに眠る“子”の名前が“力ある言葉”であることを学んで信仰し始める。
    • やがて“子”が起きれば破滅だということを知った“部族”は、自ら残虐非道な行いをすることで、眠る“子”らの夢を補強しにかかった。
    • また、“子”の名前は異国語に翻訳されるうちになまり、その力を減じていった。
  • 歳月が流れ、“部族”はさまざまな秘教カルトとして古代メソポタミアに広がっていった。
    • 井戸のあとはアシュールという都市となり、神々と崇められる“子”への邪悪な信仰で富み栄えていた。
    • ある夜、百人もの司祭によって守られるこの“犠牲の井戸”に、血の祭儀に引き寄せられて、ひとりのヴァンパイアがやってきた。司祭らはひとたまりもなく惨殺され、その残骸は井戸に放り込まれた。ヴァンパイアは自分の血潮を井戸に注ぐと立ち去った。
  • しかし司祭のうち3人だけは生き残り、ヴァンパイアとなって井戸から這いだした。これがバアリの創始者たちである。
    • ネルガル、モーロック、そして名も正体も不明なもうひとり。
      • バアリはこの故事にならって、“抱擁”のときには“臓物の井戸”という儀式を行う。内容は想像の通り。
  • ネルガルは、マシュカン・シャプールの都で、死の神として君臨した。“子”らの名前について最もよく知っていたネルガルは、やがて途方もない野望に向けて動き始める。すなわち、“子”の復活である。
    • ネルガルが復活を目指したのは、マシュカン・シャプールの地下に眠るといわれる“疫病の王”ナムタルと名付けられた悪魔であった。
    • ネルガルは、ナムタルを発掘するべく都の地下を掘り返し、同時に地上で残虐な生け贄をささげた。眠れるナムタルを起こすために、疫病で都の人民全員を一掃しようとしたのである。
  • こうした主人の野望をモーロックに知らせたのは、忠実なレヴナントであるはずのドハービの一族であった。
    • モーロックは、ナムタルの復活が破滅しかもたらさぬことを予見し、ネルガルを打倒するべく、他の氏族と共同戦線を張った。ヴァンパイアの軍勢はマシュカン・シャプールの都を急襲した。
    • 都は滅んだが、ネルガルが寝処にかけた影の防壁は、いかなる剛力のヴァンパイアでも突破できなかった。そこでラソンブラたちは奥義を用い、ネルガルは寝処ごと闇の濁流で奈落の底へと押し流された。
    • ネルガルによる脅威は去ったが、以降、バアリは危険分子として他の氏族につけねらわれることになった。
  • ネルガルの消滅後、残った支持者らは“孤児”と呼ばれ、各地に散ってカルトを築き、師を売ったモーロックになにかと反抗するようになった。彼らとの小競り合いに忙殺されたモーロックは、やがて“孤児”らを放任するようになった。
    • こうした弱小のバアリたちによって、人間らの間にパズズ、モト、バアルといった暗黒の神々の教団が広まったが、それは真の力から人間らを遠ざけようとするモーロックの策謀の成果でもあった。
  • 紀元前二千年頃、アシュールに強大無比な正体不明のバアリ、シャイターンが出現した。創始者の父であると名乗るこのヴァンパイアは、その猛烈な力と知識を開陳して多くの若いバアリを引きつけ、一大勢力へとのし上がっていった。
    • この“シャイターン”の正体は、あろうことか滅んだはずのネルガルそのひとだった。ネルガルはモーロックと他氏族の連合軍による破滅を予期し、あらかじめドハービ一族に自分を売らせると、自らは影武者を残してマシュカン・シャプールを去っていたのだった。
  • シャイターンことネルガルとその一党は、ナムタルの眠る本当の場所がガリラヤの北方であることを探り出し、ついにナムタルの眠れる遺体を掘り出すことに成功した。そしてクレタ島へと逃れた彼らは、クノッソスに大迷宮を作り上げ、そこにナムタルを安置したのである。
    • ナムタル復活を目指すネルガルの陰謀は着実に実を結び、“子”が眠りより覚め始めると、クレタ島は超自然的な暗黒の要塞と化した。海は血で染まり、闇の障壁によって致命的な陽光は終日さえぎられた。
    • 他氏族は再び団結してクノッソスを攻略した。太古の力が呼び起こされ、セラ島(現サントリーニ島)は噴火し、大津波と大地震クレタ島を破壊した。大迷宮は崩壊し、ネルガルとナムタルもその中に消えたのである。
    • しかし、その後もシャイターンを名乗る者は幾人も現れた。そのすべてが偽物であり、ほとんどはすぐに滅ぼされたが、(ダークエイジにおいて)一番最近の“シャイターン”は、西の彼方に去り、世界の果てから転落したのだといわれている。
  • ネルガルを今度こそ排除したモーロックは、トロイルに率いられたカルタゴのブルハーらと手を組んだ。象をグール化してアルプス越えを可能にするよう進言したのはモーロックだと言われている。やがてブルハーらはトロイルを筆頭に、バアリによってそそのかされた邪悪で残虐な行為にふけるようになった。特にすでに父を同族喰らいしていたトロイルは、ヴァンパイアの血潮に飢えており、喰らうために“抱擁”するという蛮行を重ねるに至った。
    • こうしてカルタゴは、モーロックの思惑どおし、邪悪な都市と化した。しかしモーロックにも予想外だったことに、彼とトロイルはいつの間にか“血の契り”で結ばれる愛人どうしとなっていた。
    • ポエニ戦争カルタゴが崩壊し、第三次戦争で完全に都市が破壊される最後の戦いで、トロイルとともにモーロックも戦った。そして二人は抱き合ったまま倒れ、地面に沈んだのである。その後、ローマのヴァンパイアらは二度と彼らが起きあがることのないよう、カルタゴの土に塩の呪いをかけた。
  • ローマ帝国時代、バアリは宗教組織への浸透をはかった。ローマ人の間に人気を博したミトラス信仰は、ヴェントルーのミトラスそのひとにがっちりと掌握されていたため、バアリの出る幕はなかった。一方、ラソンブラのモンターノとトレアドールのベシュテルが興隆を策していたキリスト教に、バアリは目をつけた。
  • 6世紀、エジプトにおいてシャイターンの末裔らがセト人と組んで、バアリに対して脅威となった。特にハイ=タウというシャイターンの子は、541年に猛威をふるった疫病の源だったという。しかしバアリはエジプトの勢力に対抗するだけの団結力を持たなかった。
  • イスラムの勃興は、バアリにとって最大の危機をもたらした。最初はムハンマドをなめていたバアリだったが、根拠地のひとつであったアラビアの異教カルトはイスラム帝国によって一掃されてしまった。
    • また、古来からの宿敵アサマイトがイスラムのもとに団結し、バアリの影響下にあったアサマイトらは異端として処刑されてしまった。さらに悪いことに、彼らから引き出した情報をもとに、アサマイトは中東のバアリの根拠地をほとんど壊滅に追い込んでしまったのである。
    • バアリは報復として、巨大な儀式を執り行い、アサマイトの血潮と同族喰らいへの嗜好を増大させた。
  • イスラム帝国の隆盛は、もうひとつの誤算をバアリにもたらした。知識の拡散である。それまで厳重に秘匿されていたオカルトの秘儀知識は、イスラム帝国による知識の収集と紙の伝播による普及によって、人間の手にも触れられるようになってしまった。若いバアリはこれを邪悪の拡散だと喜んだが、実際にはバアリによる知識の独占が崩れ、血脈の弱体化をうながしたのである。
  • シャイターンの残響はさらなる問題をバアリにもたらした。シャイターンがナムタルを掘り出し、自らの根拠地としていた地下都市コラジンは、長い間、その存在が謎とされていた。コラジンを制する者がバアリを制するのである。そして、アザネアルという名前のバアリが、コラジンの闇の障壁を破るべく、ラソンブラの術師らを仲間に加えて、ついにコラジン内部へとたどりついた。
    • アザネアルらが見つけ出したのは、ナムタルそのひとが眠っていた玄室であった。そこにはナムタルが永劫の眠りの中で壁に書き残した碑文が残っていた。そして、探検家一党は、この碑文の圧倒的な魔力の前にひとり残らず発狂し、おたがいに殺し合ったのである。
    • 生き残ったのはアザネアルだけだったが、彼もまた完全に闇の知識によって発狂していた。そしてアザネアルはそこで得た知識と狂気を武器に、コラジンの主としてバアリへの統治権を主張、配下を集めて戦争を始めたのである。
    • こうして中東は、モーロックの系譜を引くバアリ、アザネアルの一党、そしてアサマイトの三つ巴のすさまじい闇の戦場となり、これを嫌ったバアリの多くがいまだ草深かったヨーロッパへと脱出したのである。
  • ヨーロッパでももはや闇の知識が魔道書として出回るのをバアリは防ぐことができておらず、この血脈は受難の時に見舞われている。その一方で、彼らのもたらす不気味な秘術と恐怖の伝説は、ヨーロッパのヴァンパイアの間でもささやかれており、バアリの名前は彼らを震え上がらせてもいる。