トワイライト・インペリウム第3版:背景史
Fantasy Flight Games社の銀河大戦マルチゲーム。
ちょっとがんばって歴史とか種族のあたりとか設定が(マルチにしては)細かいので訳してみることに(^^
ルールブック(直リン)冒頭のプロローグ部分を訳出。
私の名はマフソム・イク・シアヴァ。
『永代年代記』の管理者であるウィナラン*1の私は、古都メカトール・シティの歳古りた「編年の塔」でこれを書いている。父より史家としての務めを受け継いで以来、この広い窓からの都の眺望を私は愛でてきた。古き町並み、太古の塔、そして遥かに遠くまで照らし出すまばゆい照明。だが、足下にのびる影のごとく、都を隔てる境目を逃れることも、忘れることもできはしない。この塔から百リーグも行かないうちに、この都を「無人の海」の有毒の塵から守るシールドがそびえているという事実を無視することはできないのだ。それは我が星を覆うおそるべき荒野である。
我が民ウィナランは、三千年以上にもわたってこの都を守り通してきた。大災厄の時代よりずっと、メカトール・レックス*2にある帝国の玉座と記録、そして銀河評議会を守ってきたのは私たちなのだ。
最後の皇帝とかわした約定を私たちは忠実に守ってきたのだ。
これを書く私の手は震えている。大いなる変革の先触れであったと私が信じる事件が、今、紐解かれようとしている。管理者としての務めは私の代で終わるだろう。それが君に連絡した理由だ。この中で、短いながら我らが銀河の真実の歴史を君に語ろうと思う。これを君に伝えるのは、君ならこの知識を遠くまで広めてくれるだろうからだ。私たちは危険な時代に分け入ろうとしている。銀河には過去の教訓が数多く必要になるのではないかと、私は危惧している。
ラザックスの王朝は、マハクト王朝の灰燼の中から興ったと言われている。初期の勃興についてはほとんどわかっていないが、ラザックスが非常に知的で、慈悲深く、そして賢明な民であったことは否定できないだろう。先史時代における興隆後、彼らが母星として帝星メカトール・レックスを選んだことは周知の事実だ。ラザックスがメカトール・レックスに降り立った年は、『帝国年代記』には“元年”として記録され、我が記録の最初に記されている。
膨大な歳月の間、ラザックスは既知の銀河を支配した。次々と帝国に接触した新たな種族は、帝国市民としての要求と意見を表明する場である銀河評議会に席を連ねた。ラザックス王朝の末期には、イクスチャ*3、ハカン*4、レットネヴ*5、ハイラー*6、ソル*7、そしてノール*8といったすべての列強種族が評議会に議席を有していた。
だが、時代が過ぎるに連れ、新たな種族と惑星系の発見はゆるやかになっていった。技術的進歩と知的発展が衰え始めるにつれて、帝国の雰囲気は少しずつ変わっていった。進歩を求める列強種族は、ラザックスの力と隣人たちの資産を狙い始めたのである。
欲望と野心がゆっくりと政治家と議員らの心に芽生えていった。帝国の精神は疑念と恐怖に変わった。この時代に、列強種族のあいだに最初の紛争が起こったと『帝国年代記』は記している。銀河評議会は陰謀の温床となり、スパイと暗殺者の時代が到来した。最初は秘密裡に、後にはおおっぴらに、この時代の列強種族は軍事力を増強し始めた。多くの種族は、本来勅許された境界を越えて領土拡大を開始した。国境紛争と資源争奪が増大し、帝国の根幹そのものを食い荒らしていった。闇の伸びていったこの時代は今、「薄暮の時代」と呼ばれている。
この時代の大半を通して、ラザックスは問題なく帝権を保持していた。失敗に終わった小規模で少数の反乱を除けば、おおっぴらに皇帝らに挑戦する者はわずかだった。だが、永遠の支配の保証に目をくらまされたラザックスは、自分たちの周りに育つ野望の脅威に気づかなかった。年を経るにつれて、列強種族間の緊張は、その権力欲とともに高まっていった。そしてついに、彼らはたったひとつの共通点を持つに至った。ラザックス族への憎悪、皇帝支配への憎悪、そして皇帝らの慈愛深き尊大さへの憎悪であった。
クワン・ワームホールの近くで起こった小さな事件が発火点となって、銀河は炎に包まれたのだ。
帝国の経済制裁に抗議して、レットネヴ男爵はクワン・ワームホールの封鎖を開始した。これはレットネヴとの喫緊な問題にはほど遠かったため、無関心なラザックス皇帝は、銀河評議会にかけて紛争を平和的に解決しようとした。
だが、レットネヴの封鎖艦隊は、ソル艦隊によって勅許も警告もなしに襲われ、全滅した。貴重な貿易収入を失ったソル連邦は堪忍袋の緒を切り、独断で行動したのだった。
激怒した皇帝は、すべての軍艦を皇帝の直接監督下に置くマーンドゥ勅令を布告すべく、影響力を結集しようとした。このマーンドゥ勅令が、砕けやすくなっていた帝国を粉々に砕く一石となった。この布告の後、レットネヴ、ソル、ジョル・ナーが評議会からの即時脱退を宣言し、銀河は内戦に突入した。
クワン紛争が「黄昏の時代」のはじまりとなったのだ。
種族どうしが相争い、わずか数年で一千もの領土紛争が暴発する中、ラザックスは必死で自らの権威を保とうとした。崩れゆく帝国をまとめようと、ラザックス艦隊は銀河中で戦った。ラザックスの最期は開戦後七十三年目に訪れた。無警告に、ソル、ノール、ハカンの連合艦隊がメカトール・レックスを襲ったのである。
銀河の全惑星の中で、メカトール・レックスほど戦禍に引き裂かれた惑星はなかった。ほんの数年で、惑星の環境は爆撃で荒廃し、住民は虐殺され、その緑の沃野は有毒の荒野へと変じた。
ラザックス最後の皇帝とその一族は、ソルによる侵攻初期に処刑され、継承者が指名されることはなかった。
最後の皇帝の死後、見せかけのラザックス支配もすべて消え去った。ラザックスは復讐に猛り狂った銀河全体で殺戮された。これは今、大災厄と呼ばれている。わずか二十年しか続かなかったが、大災厄によってラザックスは絶滅した。現在に至るまで三千年以上もの間、ラザックスが既知の銀河で目撃されたことはない。
黄昏戦争はゆっくりと鎮静化した。次にやってきた時代は「暗黒時代」と呼ばれている。経済的、文化的、知的な崩壊の時代だ。列強種族は自分の狭く安全な領域に引きこもった。
歳月が経ち、暗黒時代は終わりを迎え、静かながら不安定な再建の時代が始まった。今私がこれを書いている間にも、列強種族はかつての力の諸要素を取り戻してきている。我が都では銀河評議会が再び影響力を強めており、列強種族は暗黒時代に放棄した隣接諸星系への植民に血道をあげている。
大変革の徴候はどこにでも見られる。呼吸する大気にそれを感じる。今年、太古の予言から現れたかのように、ラザックスが歴史の闇から不気味なサイバネティクスに身を包んで戻ってきた*9。私にとって、彼らの到来はおそるべき嵐の最初のひと吹きのように思えてならないのだ。まるで銀河が目覚めつつあるかのように。暗き洞で眠る古き野獣が身じろぎしたかのように。
新たな帝国が興る時は間近い。すべての民のため、新たな皇帝が玉座を勝ち取る力だけでなく、平和を敷く強さも持つことを祈らずにはいられない。
さもなくば、無人の海が我らすべてを呑み込むことになるだろう。