トワイライト・インペリウム第3版:L1Z1Xマインドネット

 帰ってきた帝室。かなりボーグ風味。

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 ハカンの交易商船ゾラール号が消息を絶ってから十三年が経過した。その一年後、マハクト小惑星帯近傍のイサリル基地からの絶望的な最後の通信が傍受された。
 ゾラール号の最後の通信は不気味な物語だった。マハクト星域のモール・プリマスを出発した後、航法装置が故障し、船員たちは遠い辺境のさらに向こうへと漂流した。ほぼ二週間のあいだ深宇宙をさまよった後、突如として彼らは未知の巨大戦艦から呼びかけられた。船員の歓喜はすぐに恐怖へと変わった。戦艦は接近すると、舷側の砲台を無防備な商船に向けたのである。ハカンの船長は船が破壊される前に最後の緊急通信を送ったのである。
 ゾラール号失踪からまもなく、巨大な異星艦隊がイサリル領域の外縁に出現した。その艦隊から少人数の代表団がメカトール・レックスを訪れ、祖先からの権利として帝国の玉座を要求した。彼らは、古きラザックスの正当な末裔であり、現在は「エルワンズィーワンエクス」と呼んでいると称した。身の毛のよだつような外見ながら、彼らは確かにラザックスに似ていた。しかし全く変貌を遂げていた。彼らの肉体はほぼ全体がサイバネティック・インプラントに侵食されていたからである。
 ウィナラン管理団はこの件を巡って大きく分裂している。ある者はL1Z1Xは王族ではなく、まったく新しく、かつ潜在的に危険なハイブリッドであると主張している。また別のウィナランは、ラザックスは予期せぬ姿ながらもとにかく帰還したのであるから、管理団の使命は終わったと論じている。
 ウィナランの調査官がL1Z1Xのホームワールド、その住人のいうところの「座標ゼロゼロゼロ」、他の種族からは「ヌル」と呼ばれる惑星を訪れた。調査官はまだ戻ってきておらず、L1Z1Xは今もほとんど未知の存在である。彼らについて知られているわずかな事は、L1Z1X自身からもたらされたか、ジョル・ナーの学生監たちが発掘した数少ない古記録からもたらされたものである。
 ハイラーの記録とL1Z1Xの主張によれば、L1Z1Xの歴史はラザックス滅亡の時代に始まる。メカトール大爆撃まで一年も残されていない頃、イブナ・ヴェル・シドという名の皇帝付き顧問が迫り来る破滅を予見した。皇帝や他の顧問たちはイブナの不吉な警告に耳を貸そうとしなった。やがてイブナは彼らの近視眼にいらだちを深めた。ラザックス海軍は明らかに敗退しており、何十もの星系が日々反乱に加わり、交易がまったく立ちゆかなくなり、メカトールの食糧供給も底をつきつつあるのに、皇帝と内閣は自分たちの生得権と帝国も滅びるかもしれないということを認めようとしなかったのである。
 主君と運命を共にするつもりがなかったイブナ・ヴェル・シドはひそかに自分の家族と彼と恐れを共有する数千人のラザックスを脱出させる計画を練り始めた。イブナは、ラザックスの文化、技術、知識の柱を共に運んでいこうとした。彼はハイラーの科学者の小グループも説得して仲間に加えた。ハイラーの技は帝国の根本技術に不可欠だと考えたからである。
 そして、黄昏戦争の七十二年目の運命の夜、マンダ号とハーワナ号という二隻の輸送船とイブナの巡洋艦シド号は、メカトール市の大宇宙港を出発した。眼下では巨大な測量会館が炎上していた。ラザックスの敵から発見され弾圧されることを恐れたイブナは、自分の秘密の目的地を暴露しそうなあらゆる記録を破壊しようとしたのである。その目的地とは、辺境のはるか彼方にある小さな恒星ハズをまわる寒冷ながら生存に適した惑星であった。
 推測するに、このコロニーは生き延びるため、困難を乗り切る助けとなるテクノロジーだけに頼り始めた。おそらく、ハイラーの科学者たちに助けられて、テクノロジーが彼らの生活と肉体に入り込んでいき、やがて彼らはテクノロジーそのものとほとんど区別がつかない存在になったのである。
 噂によると、イブナ・ヴェル・シドは年老いた肉体を活かし続ける奇怪なテクノロジーに覆われながら、今でも自分の民を率いているのだという。L1Z1Xを導いているのが、彼らを救った英知なのか、それとも高名な測量会館を破壊した狂気なのかは、今もって定かではない。彼らの虚ろな赤い目の奥には、悲劇の歴史と恐るべき悪意が潜んでいる。ラザックスの機関が予言と鋼鉄の大波で銀河を洗い流すのはまず間違いないだろう。