conflict resolutionなるもの

 海外のインディーズRPG界隈を中心に「語り派」とでもいえるようなプレイスタイルを指向するRPGプレイヤーがたくさんいると聞きます。彼らの指向するRPGのプレイは、短く乱暴な言い方をすれば、「数値等ゲームルール上のやりとり」を中核にすえる遊び方(D&Dのパワーゲーム重視のプレイが代表)*1に対して、「物語を参加者全員で積極的に作っていく」ことを中核にすえる遊び方だといえます*2
 こうした嗜好に基づいたゲームで、危機や対立状況を公平に解決するための手段として採用されるのが、表題にあげた「conflict resolution」(CR:葛藤解決?訳語選択がむずかしい)です。これは日本では一般に「行為判定」と訳されている「task resolution」(TR)に対する名称として使われています。
 どう違うかという説明には、よく金庫破りの例が使われています。確かふぇる氏(id:felis)がすでに書いていたような気がしますが……。

課題:敵の悪行の証拠を、敵の事務所から探り出す。

TRの場合:
  1. 門番をすりぬける/忍び足判定
  2. 事務所に侵入する/鍵開け判定
  3. 証拠のある部屋を探す/捜索判定
  4. 該当部屋の金庫をあける/鍵開け判定
  5. 門番をすりぬけて脱出/忍び足判定

以上のような複数回複数種類の判定を、それぞれの障害について行うことで「証拠ゲット」という一連のシーンを再現するわけです。たとえてみると、行為という「積み木をつみあげて」状況を再現します。

CRの場合:
  1. 敵の悪行の証拠を、敵の事務所から探り出せたかどうかを判定

この判定にパス(勝利)すれば、プレイヤーが宣言した目標は何らかの形で達成されます。どのような形=過程で達成されたかは、達成したという判定結果をふまえた上で「語り」(国産ゲームふうに言えば演出)を入れることになります。なおこうした「語り」はプレイヤー主導で行うように多くのゲームで推奨されています。
もし判定にパスできなかったら(敗北)、何らかのトラブルが発生して、宣言した目標の完全達成には至らないことになります。このとき、ただ単に「探り出せなかったよ(完)」とはなりません。何かトラブルが起きて部分的な達成に終わったり、達成はしたがより困難な状況に陥ったりしたことになります。CRは「語り」をつないでいくことを主眼とした方法なので、常に次のシーンにつながるように展開を決めていかなければなりません。

  • 探り出せたが、門番に見つかったので、次はチェイスシーンを設ける。
  • 金庫は開けられなかったが、同じ部屋にあったメモから情報源の名がわかったので、次はその人物との遭遇シーンを設ける。

といったように、ここでもマスターとプレイヤーが協力して新たな状況を「語り」を入れて決めていくことになります。

CRの特徴

 CRは、言い方を変えれば「行為判定」に対して「シーン判定」と呼んでもいいかもしれません。シーン内の個々の行為の成否を決めるのではなく、シーン全体の展開の流れがどっちに向かうかを決めるために行うチェックです。
 CRを用いるゲームの最大の特徴は、判定によって展開の方向性が与えられたシーン状況の描写権限がプレイヤーに分掌されていることでしょう。TRを用いるゲームでは、行為失敗によって次に何が起こるのか決めるのはおおよそマスターの専権事項です。しかしCRを用いるゲームでは、

  1. プレイヤーがそのシーンで何を達成したいかを明らかにする。
  2. ルールにのっとって判定を行う。
  3. 判定の結果に応じてマスターが達成の度合いを決め、プレイヤーと協力してシーンの実際の展開を「語る」。
  4. 次のシーンにつなげる。

という手順を踏みます。このようにプレイヤーサイドが大きな権限を持つ利点は、プレイヤーがより自分の好みを実際のプレイに反映できることと、マスターのセッション運営負担が軽減されることでしょう。
 ただし、「次に何が起こるんだろう?」というセンス・オブ・ワンダーやキャラクターへの没入感は、プレイヤーが半ばマスターを肩代わりする遊び方である以上、TRを用いるゲームにはおよばないかもしれません。特に後者の没入感については、CRを指向する「語り」タイプのゲームが、プレイヤー視点でのプレイをキャラクター視点よりも重視しているため、人によっては興ざめと感じるかもしれません。ここらへんはCRを用いる上で注意しなければならない点だと考えます。

CRを用いるゲーム

 国産TRPGの中では、やはりRevolution以降のトーキョーN◎VAが筆頭に挙げられるのではないでしょうか。公式シナリオを見てなんじゃこりゃと感じたのが思い出されます。リサーチフェイズの進行は、情報収集まわりを中心に、プレイヤーが自キャラの内容とシナリオハンドアウトの傾向を鑑みながら主導してシーンを設け、リソースを消費しながら判定を行って達成具合と展開の傾向を決め、そうした判定結果にのっとりながら自在にシーンを描写する、という作業の繰り返しです。
 その後いろいろと出てきている、オープニング、リサーチ、クライマックス、エンディングの四フェイズを採用するゲームでも、一貫してこうしたCRを用いた進行が指向されているように思います。

(とりあえず今日はここまで)

*1:結果的にドラマチックな物語になることもある。

*2:はじめからドラマチックな物語を指向してプレイする。