アローン連合の小部族(2)

 Zin Lettersではバハッド族が中心に記述されています。以下は冒頭概要部分の訳出。

バハッド族 - 屈すれども折れず -

 バハッド族は、ターシュ諸氏族がファー・プレイスに定住した1492年に、バハッド、金がちょう、スワイジェルの三氏族によって創設された。やがてバハッド氏族はギャリック氏族とモンリス氏族に分裂した。16世紀、新たにロヴァンタールとナーヴェンディという二つの氏族が参入した。しかし両氏族とも1611年の“正しき風の反乱”で金がちょうの氏族とともに滅び去った。バハッド族は東走して“隠しの谷”を越え、“トカゲ森の荒野”に入った。1612年に現在の土地に定住するとメゼロス氏族(訳注:ターシュ内戦によって故国を追われたターシュ流民の一派。荒野の先住民)が参入し、まもなく新設のブリンヒョルト氏族(訳注:荒野の森と沼の精霊を崇める呪術信仰の氏族。謎めいている)が加入した。
 バハッド族は伝統を墨守するオーランス、バーンター、エルマル、オデイラの信者の集団である。かつて嵐の名を奉じる戦士や法の司として称賛された彼らは、今では雌伏と忍従の中にある。なぜならルナーとハーヴァーが部族全体に屈服を強いたからである。バハッドの部族の輪は、武力弾圧を回避するために圧制者たちを満足させようと全力を尽くしている。しかし、この平和と礼儀の背後に、バハッドの子らは嵐と反乱を隠しているのだ。
 “正しき風の反乱”の失敗の後、数多くの古参戦士や指導者が死ぬか追放の憂き目にあうと、アズリーリアの老婆たちが重要な地位についた。彼女らは食料や伝統以上のものを守っている。すなわち、“大地の魔女の輪”は来たるべき雷の種子を隠し、厳重に護っているのである。老婆たちは将来に向けた同盟関係を編んでいる。バハッドの子らは、故郷の共同体から追放された幾多のオーランス人流民や難民に隠れ家を提供している。
 現在、バハッド族は五つの氏族から成り、その総人口は四千人強である。

現今の相関関係

 バハッド族内部での主たる対立は、ギャリック氏族とスワイジェル氏族の間に横たわっている。ギャリック氏族は忠実なオーランス信者であり、普通、新しいことには何にでも反対する。一方、スワイジェル氏族は非常に強いエルマル信仰を有しており、その伝統はアルダチュール人のイェルマリオ神殿によく似た側面を持つ。加えて、彼らはルナー人を不倶戴天の敵とは感じておらず、和解の可能性も提示する。
 モンリス氏族は伝統的に、ギャリック氏族とスワイジェル氏族の間をとりもつ仲介者としてはたらき、両氏族と良好な関係を保っている。当代の部族王であるモンリス氏族の“賢き”レオフザーンは、堅実な妥協を取り結び、助けを求める者皆に個人で手をさしのべることで、部族の団結を保ち続けている。ブリンヒョルト氏族は、血縁の絆を通してモンリス氏族とギャリック氏族を支持している。隣人であるスワイジェル氏族には偏りのない立場をとっている。
 もちろん、いくつかの絆が諸氏族をまとめている。モンリス氏族とメゼロス氏族でエルマル信仰が強く支持されていることがスワイジェル氏族の立場を守っているし、ギャリック氏族といえども全くエルマル信者がいないわけではない。スワイジェル、モンリス、メゼロスの三氏族は「一なる太陽の平和」のため全力を尽くしている。これは、エルマルについての多種多様な解釈問題は、血族と部族の団結がかかっているときには些細な違いであるという見方である。部族最強最大の氏族として、三氏族はギャリック氏族を懐柔するすべを備えている。
 毎日の生存といった現実的な問題が相互の理解をうながしている。魔法に満ち、時には敵対的ですらあるトカゲ森の荒野では、諸氏族は団結して知識と魔術を糾合しなければならない。部族全体のオデイラの狩人は、ブリンヒョルト氏族の保護のもとで、“熊の巣”での“大いなる熊”信仰を行っている。オーデイラ(訳注:Ordayla 指導者としてのオデイラ)の高山野営地での夏期狩猟が、狩人たちの絆を深めている。メゼロス、モンリス、ギャリックの諸氏族にタラヴァドの子らの四血脈に属する農夫と牧夫が参加していることが、これらの氏族の団結をさらに強固なものにしている。
 アローン周辺の諸部族にとって、バハッド族は堅く団結しているように見える。アローンのバハッド館は、すべての氏族の代表と交易商人が宿をとり、チャラーナ・アローイの寺院は彼らによって強力に支援されている。同様に、超然としたブリンヒョルト氏族を除いた全氏族が、地元フマクト信者から成る“黒指隊”に貢ぎ物をおさめている。
 バハッド族はアマド族と共同歩調をとる。両部族の間には抗争がなく、交易は頻繁で、アローンの輪では両部族の代表はほとんどの場合足並みをそろえる。しかし、バハッドの子らはルナーとハーヴァーによってアローン連合に強制参加させられたことを快く思っていない。バハッドの諸氏族の過半数は、アローンの輪にいる親ルナー派を信用していない。
 暗黒を崇めるトーカニ族にとって、バハッド族はやっかいな存在だ。ブリンヒョルト氏族は平和的で好意的だし、ギャリック氏族とメゼロス氏族の商人は定期的にストアロック村の市場(訳注:藍の山脈ふもとにあるトーカニ族支配の小村。アーガン・アーガーの社あり)を訪れるが、光を崇めるスワイジェル氏族はトーカニ族を敵視している。彼らはトーカニ族の西端の諸部族に襲撃をかける。時には独力だが、他のエルマル信仰の氏族から加勢を得ることも多く、ディナコリ族と手を組むことすらある。この問題は両部族の輪で難題となっており、将来の戦争の火種になりうる。


(続く)