概略

 バダブ戦争は、〈人類の帝国〉を揺るがした近年では最も熾烈で危険な内戦のひとつである。901.M41から913.M41まで続いたこの戦いは、想像を絶する事件がいくつも起きたことで悲劇に満ちたものになった。名誉と裏切り、政略と強欲が複雑にからみあった結果、少なからぬスペースマリーン戦団が帝国に叛旗をひるがえし、血塗られた激しい内戦が始まった。この戦争によって〈帝国〉最強の軍勢が互いに殺しあい、その混乱の中で何百万人もが殺戮された。
 すべてはアストラル・クロウ戦団長であり、悪名高い〈バダブ総統〉を自称したルフグト・ヒューロンの裏切りと慢心から始まった。この戦争の間、〈渦圏〉の星々で繰り広げられた大虐殺はすさまじく、直接その戦禍を受けなかった〈帝国〉諸惑星の信仰と秩序すら動揺させ、忠実な臣民が守護者たる〈戦闘者〉を恐怖の目で見るようになった。戦争の背後に隠された凶行と真実は数知れず、バダブ戦争には戦中戦後を問わず、秘密と欺瞞のヴェールがかかっている。
 反乱は異端審問庁の軍勢と〈人類の皇帝〉への忠誠篤き〈戦闘者〉の諸戦団によって鎮圧された。しかし、首謀者であるアストラル・クロウ戦団は渾沌の麾下に転落して背教の戦団となり、生き残りは〈赤き海賊〉(レッド・コルセア)と呼ばれる忌まわしいケイオス・スペースマリーンの戦群となった。〈赤き海賊〉は策謀に満ちたケイオス・ロードに率いられている。その名はヒューロン・ブラックハート。かつて高貴であったルフグト・ヒューロンとは似ても似つかぬ〈分かたれざる渾沌〉の〈統べるもの〉である。ブラックハートと〈赤き海賊〉は現在、銀河東部辺境宙域にある〈渦〉という〈歪み〉の亀裂に広大な渾沌帝国を築いている。ブラックハートは〈帝国〉に報復をたくらんでおり、〈恐怖の眼〉の大逆兵団の領域ですらかすむような新帝国を禍つ神々に捧げようとしている。