バダブ戦争(承前)

コルキラの虐殺(910.M41)

 これはバダブ戦争の「失われた物語」であり、真実は今後も決して明らかにはならないだろう。〈帝国〉の記録では〈コルキラの虐殺〉と記されているこの事件は、910.M41に〈帝国〉海軍の巡邏によって見いだされた。密輸商人の拠点の廃墟が辺境惑星コルキラ第二惑星の塵の荒野で発見された。その基地の内部には、人類史上まれに見る大虐殺と破壊の悪夢めいた光景が広がっていた。エグゼキューショナー戦団とカーチャロドン戦団の中隊未満の兵力どうしが死闘を繰り広げたのである。いずれもその野蛮さと容赦なさで悪名高い両戦団は互いに全滅するまで戦い続けた。彼らの周囲で基地はずたずたに破壊され、かつての住人はばらばらの塵となりはてた。両軍ののこした死骸はおそるべき傷にのたうちまわったことを示しており、切断された手足やすさまじい怪我は〈戦闘者〉ですら死に至るものであったし、何人かは内臓をとびちらせて組み合ったまま、最期の力をふりしぼって敵と刺し違えたまま死んでいた。勝利の凱歌をあげた生き残りがどちらかの戦団にいたかどうかは定かではなお。コルキラ第二惑星で起きたことを語る生き残りについては、どちらの戦団も記録していないからである。

鉄火の激突(910.M41)

 910.M41の中頃、〈渦圏〉東部で海賊の活動が活発化した。〈忠誠派〉大本営の間では、これは少なくとも一個のアストラル・クロウ部隊が何らかの方法でバダブ星区の封鎖をくぐりぬけて、〈渦〉辺縁部で作戦行動を行っているのだと考えられた。〈帝国〉海軍護衛艦隊の索敵戦隊がこうした襲撃を鎮圧するために派遣された。〈分離派〉がこの機に乗じて〈忠誠派〉の側面に新たな戦線を構築することを防ぐためである。辺境惑星ルークにおいて、海賊の痕跡が発見された。ここは〈渦〉の内部で〈帝国〉のエージェントを支援する気のある数少ない惑星のひとつであり、その住人は熱心な〈奉納派〉(Oblationist)から成っていた。彼らは〈忠誠派〉大本営に、近隣の星系でアストラル・クロウ戦団の打撃巡洋艦ヒルカニア〉に率いられた人類の海賊船団によって奴隷獲得のための襲撃が活発になっていることを報告した。こうした海賊船団の攻撃パターンは〈歪み〉に残された残響をたどってランプスタン星系、そしてシャプリアルとスカルフェルという双子の野蛮惑星まで追跡された。強力な敵勢力がこの地点に終結していることを予想した〈帝国〉海軍戦隊は、再編成と補給のために撤退し、増援を要請した。
 その頃、〈渦圏〉北部ではカーチャロドン戦団がトランキリティー線駅の最終段階の実行に忙殺されていた。南部ではミノタウロスとサンズ・オブ・メデューサが帝国防衛軍懲罰連隊の支援を受けながら、〈総統兵団〉が頑強に抵抗していたバダブ星区辺縁の惑星アイシンを攻撃していた。総司令官クランはセーガン星系に駐留していた自身のレッド・スコーピオン戦団と新たに増援を得たエクソシスト戦団を召集して、パイレウスにある〈歪み〉の戦略的結節点への攻撃を準備した。これは重要な目標であり、バダブ星区への入口と見なされていたのである。開戦以来、〈忠誠派〉の兵力は多大な損害を受けてきており、それまで〈忠誠派〉の大義を奉じて戦ったスペースマリーン戦団の多くは撤退していた。ハウリンググリフォンやマリーンズ・エラントはその損害の大きさから引き上げており、またノヴァマリーンやファイア・エンジェルは独自の理由でこの戦場を離れていった。要するに、〈忠誠派〉の軍勢はスペースマリーン中隊の増援が到着していたものの、戦線全体に広がってしまっており、総司令官カルブ・クランは多正面で戦って〈総統〉が企図するような消耗戦に引きずり込まれることはできなかったのである。
 味方のスペースマリーンの指揮官たちとの協議の末、サラマンダー戦団の老練の戦士ペラル・ミルサンがランプタン星系での海賊の一件について解決策を提示した。自身の戦力を率いてランプタンを急襲したサラマンダーたちは、奇襲を利用して太古からのオンナ・ノストロマ戦術を用いて、強力な大戦艦〈栄誉の焚火〉の力をたたきつけ、敵に決定的な打撃を与えた。軍議で超然として謎めいたミノタウロス戦団の代表を務めるイヴァヌス・エンコミ教戒師は、この任務におけるサラマンダーを援護するために、自身の親衛隊と集められるかぎりの軍勢を率いて駆けつけることを提案した。これが許可されると、〈火の賜物〉と名づけられた攻撃部隊に、さらに〈帝国〉海軍軽巡洋艦およびフリゲート戦隊の増援がつけられた。この部隊はただちに出発し、戦場で敵とまみえるためにランプタン星系に向かった。