シャプリアスの死闘(910.M41)

 〈忠誠派〉艦隊がランプタンの不安定な二重太陽系に入ったとき、彼らの怖れていたことがすぐに現実になった。野蛮惑星シャプリアスの軌道上には、回収した廃船と鹵獲した輸送船から寄せ集めて作られた宇宙船から成るごたまぜの大艦隊が遊弋していたのである。アウスペクスによる探査とアウグリー探査機の投入によって明らかになったのは、眼下の惑星上には広大な野営地と訓練場が広がっているということだった。このシャプリアスで、新たな軍隊が〈総統〉の大義の奴隷となった野蛮で堕落した部族戦士たちから作り上げられようとしていたのである。これはルフグト・ヒューロンの意のままに殺戮を行う消耗可能な武器というわけだった。ミルサンは敵艦の大半は何らかの略奪作戦に行って留守であると看破した。これ以上の好機はなかった。この名高いサラマンダーの指揮官は、すばやく大胆な攻撃計画を練り上げた。〈戦闘者〉の連合部隊は、惑星に降下するとただちに〈分離派〉の城塞と訓練場を襲撃した。時を同じくして、海軍護衛艦隊もただちに発信して、可能な限りすみやかに敵の大艦隊の破壊に向かった。
 2つの戦団がドロップポッドとサンダーホーク・ガンシップを発射し、それぞれ担当の戦域に分かれた。ミノタウロスはサラマンダーの同胞が受けたよりもさらに苛烈な抵抗にさらされたが、攻城戦の名手である彼らはアストラル・クロウの鉄の城塞に襲いかかった。サンダーホークが敵の戦列に穴をあけると、ガンシップからアサルト・ターミネーターとデヴァステーターの諸隊が、煙をあげる廃墟に直接降り立った。中隊規模のミノタウロスのその他の兵力はこのブレークポイントのすぐ背後に展開し、敵の反撃によってしたたかに打ち据えられた。大損害を受けながらも、ミノタウロスの先遣隊は廃墟と化した城塞で規律の取れた勇猛さをもって持ちこたえ、襲い来る〈分離派〉に1インチたりとも地歩を譲らなかった。ブロンズカラーの鎧をもったミノタウロスは、戦闘用シールドで身を守りながら、ボルターの砲火をものともせず廃墟要塞を奪還すべく前進してきたアストラル・クロウのリタリエーターと荒々しく激突し、歪んだ金属と粉々に砕けたロックリート素材のただ中で何度もぶつかりあった。
 城塞をめぐって攻防するミノタウロスとアストラル・クロウは数の上では互角であり、塹壕も防備も勇気も戦意も劣るものではなかった。しかし、ミノタウロスは攻城戦の達人であり、この血塗られた白兵戦の地獄はまさしく、彼らが喜んで戦うたぐいの戦場に他ならなかった。ランドレイダーとシージ・ドレッドノートの装甲部隊に率いられたアストラル・クロウ戦団はミノタウロスの攻撃第二波によって釘付けにされた。エンコミ教戒官はジャンプパックを装備した精鋭先遣分隊を自ら率いて敵の副次的な城塞を強襲して皆殺しにした。包囲分断されたアストラル・クロウは殲滅された。ゆっくりとして血塗られた進撃ではあったものの、〈忠誠派〉の進軍はついに〈分離派〉は阻止できなかったのである。アストラル・クロウは全ての城塞でミノタウロスに多大な出血を強いたものの、城塞はひとつまたひとつと陥落し、とうとう勝利はミノタウロスのものとなった。
 一方その頃、サラマンダーの大部隊が都市ほどの大きさのある訓練場の中心部に降下した。名高きこの戦団で最強の戦士たちであるサラマンダー・ファイアドレイク・ターミネーター部隊が、カエスタス型アサルトラムの一翼に搭乗して、〈分離派〉の着陸地点を攻撃する別働隊の任務をになった。最初の一撃で、カエスタスの装甲衝角とマグナ・メルタ砲が地上の敵輸送艇を襲い、その船体を引き裂き、燃料タンクに着火した。ファイアドレイク隊が揚陸艇から黒煙をあげるただ中に飛び降りると、混乱と破壊はただちに大虐殺にかわった。彼らのストームボルターとサイクロンミサイルランチャーは慌てふためく敵が抵抗を始める前に全てを一掃したのである。他の場所では、ミルサン隊長率いるサラマンダー主力部隊が敵の中心部、訓練場の中央にある円環状の防御施設に直接降下を敢行した。完全に包囲されたサラマンダー部隊はわずかに百人のスペースマリーン、敵は野蛮人とミュータント、そして近隣の数十の残虐な住人から成っており、その人数は千倍にも達した。
 他の戦士であればもはや自殺としかいえない状況であったが、彼らヴァルカンの息子たちは、この劣勢をものともしなかった。サラマンダーの強襲によって突然の憤怒と混乱に陥り、統率するものもなく右往左往する蛮族の大群は反応が遅れ、ようやく攻撃に転じたときには猛烈な火力の壁に直面することになった。ホワールウィンド自走砲、デストラクター型プレデター戦車、そして整然としたサラマンダーの隊列が超近距離で一斉射撃を放つと、わずか数分で何千人もの異端者が斃れていった。まもなく破壊された訓練場の地面にはけいれんする肉体の山々がそびえたった。大群が態勢をたてなおしたのは、血に塗れた鋼の鎧を身にまとうアストラル・クロウたちが戦場にかけつけ叱咤してからであった。サラマンダーたちは、汚らしい異端者の大群の中で、リタリエイター・スカッドの隊形をとる真の敵たちを見つけ出すと、容赦の無い猛砲撃を継続した。ミルサンは強襲計画の第二段階に移り、ほめたたえられるアキレス型ランドレイダー隊がアストラル・クロウの戦列に直接吶喊した。戦車はサンダーファイア砲とマルチメルタ砲を放ち、大群の隊列に巨大な穴をあけていった。ランドレイダーはアストラル・クロウの中央を撃砕すると、左右に分かれて〈古きもの〉たちの憤怒を解き放った。
 おそるべき伝説にうたわれる〈鉄竜〉ブレイアース・アッシュマントに率いられた六機のドレッドノートがアストラル・クロウの戦列に襲いかかり、粉砕し、浄化の炎で焼き払った。圧倒され、劣勢に追い詰められながらも、アストラル・クロウは容易に屈せず、栄光ある戦闘で討ち死にしながらも、サラマンダーの〈古きもの〉の二機を倒した。アストラル・クロウの最後の一人であるセンチュリオンは、〈鉄竜〉によって真っ二つに引き裂かれながらも末期の息で〈総統〉の名を呼び、その死骸は打ち捨てられた。主人たちが全滅すると、大群は潰走した。何万人もが背後から迫る火と死の王者たちから逃れようと無我夢中で逃げだし、その中で何百人もがさらに絶命した。
 壊滅した城塞の地下奥深くで、ミノタウロスとサラマンダーは、アストラル・クロウが守ろうとしていた秘密を発見した。それは、〈異端技術〉の研究所を擁する広大な天然洞窟網であった。これらは大量に戦闘薬物を製造し、原始的な遺伝子改造と人体実験をシャプリアスの野蛮な戦士たちだけでなく、〈渦〉東部の襲撃で捕獲された〈帝国〉人の捕虜たちに対しても行っていたのである。そして最下層で〈総統兵団〉の〈検屍官〉アポセカリーの一団によって守られていたのは、戦死した〈忠誠派〉スペースマリーンから強奪された遺伝種子の山であった。
 軌道上の戦いも地上と同じように〈忠誠派〉の優勢に推移したが、代償は大きかった。にわか作りの大艦隊は燃えさかる残骸になりはてたが、艦隊を守るために隠されていた兵器プラットフォームによって〈栄誉の焚火〉は損害をこうむり、ソード型フリゲート〈エポナ〉は爆沈した。戦闘開始から十一標準日が過ぎようとするころには、〈火の賜物〉はランプタン星系を離れて、〈忠誠派〉の支配宙域への危険な航海に乗り出した。これには千人もの解放奴隷を収容した〈帝国〉海軍の軽巡洋艦が随伴しただけではなく、〈栄誉の焚火〉そのものの内奥部に、地底から回収された貴重きわまる遺伝種子がおさめられていたのである。〈火の賜物〉は大勝利を宣言し、もし放置すれば〈帝国〉に非常な危険をもたらした〈総統〉の謀略を暴露し転覆した。しかし、〈忠誠派〉大本営も、ランプタンへの攻撃が、バダブ戦争の行く末を予想外に変えてしまう事件につながるとは全く思っていなかった。

(続く)