バダブ陥落

〈鋼鉄の円環〉突破(913.M41)

「我が近衛が眠り、我が艦が投錨していようとも、怨敵は大砲が止まぬことを知るのだ」ルフグト・ヒューロン、バダブ総統、909.M41頃
 〈忠誠派〉がバダブの最終包囲を決行する用意はととのった。その軍勢は不気味なスター・ファントム戦団の艦隊が十個中隊と〈戦機兵団〉(レギオ・クルシウス。〈帝国技術局〉の戦闘部局の一)の巨兵隊を搭載して到着したことによって大幅に増強された。この巨兵はオングストロームの〈技術力〉の援助によるものであった。また、〈オルドンの剣〉などの大型軍艦も復帰を果たした。最初の攻撃は簡単なものでないことが予想されていた。というのも、〈忠誠派〉は〈鋼鉄の円環〉を撃破しなければならなかったからである。〈円環〉はほぼどんな攻撃艦隊であってもしりぞけるほどの火力を有しており、また、惑星間空間を機雷原と砲火のキルゾーンから成る迷路に仕立てていた。しかし〈忠誠派〉大本営はこの脅威を最小限の損害でしりぞけて、すばやく惑星降下を行うための突飛な作戦を練っていた。この作戦の鍵は二段構えであった。オングストローム大賢人の古代技術と〈総統〉自身がふくらませた猜疑心を利用するというものである。
 〈鋼鉄の円環〉最大の弱点は、ほとんどその位置が静止しているという事実であった。さまざまな機雷原と重武装の宇宙要塞の位置取りは予測可能であり、バダブ側が所有する防衛艦隊は一糸乱れぬ集中攻撃を跳ね返すだけの力を持っていなかった。バダブ第六惑星軌道上を周回する重武装の宇宙要塞が、外惑星系防衛の要であった。〈忠誠派〉のスパイはこの〈センチネル・シグマ〉要塞が主司令部であり、そこで〈総統〉がまだ信頼している臣下のひとりが指揮を執っているのだということをつきとめた。それは悪名高いアストラル・クロウのコリエン・スマトリス中隊長だった。このような体制のために、数々の宇宙要塞と機雷原は〈総統〉が信を置いていない指揮官たちでは自立的に動かすことができないようになっていた。〈センチネル・シグマ〉を無傷で奪取すれば、伝説にうたわれるバダブ星系の“大砲”を沈黙させることができるのである。
 〈忠誠派〉の突撃艦隊は317.913.M41にバダブ星系の現実空間に実体化した。それは星系平面のはるか上方であり、バダブ第六惑星への直接攻撃ルートにあたっていた。この艦隊はスペースマリーン大戦艦六隻、打撃巡洋艦九隻、さらに〈帝国〉海軍の戦列艦六隻、〈帝国技術局〉の戦闘母艦、護衛艦およびさまざな形式の攻撃艦艇計八十四隻から成っていた。先頭に立つのは機動要塞〈猛禽の王〉、その背後にはオングストロームの技術力によってベイル・カスケード星系から抜き取った燃え上がる恒星核が牽引されていた。この脅威に反応してバダブの戦闘機械群が起動したが、すでに次に起こることを止めるには遅すぎた。すみやかに終端速度に到達した〈猛禽の王〉の巨躯は、最大出力で針路を変更すると、その慣性を利用して恒星核の業火を〈センチネル・シグマ〉宇宙要塞との衝突軌道にのせたのである。その間、〈忠誠派〉艦隊は安全な距離で穂先型陣形をとって待機していた。
 恒星核の針路から逃れることもできず、防衛線のありとあらゆる兵器は転がり落ちる火球に向けて砲門を開いた。しかしこの新たに生まれ、自分たちに向かって突進してくる恐るべき星の光に目をくらまされ、〈鋼鉄の円環〉の兵器は視界を確保できず、ましてや迫り来る艦隊を撃つこともできなくなった。このため、大量の機雷と兵器の照準システムはお互いにねらいをつけあってしまい、結果、宇宙空間に核爆発が波のように解き放たれた。防御レーザーと宇宙要塞の主砲が超近距離で燃えさかる星に打ち込まれると、粉砕された星のかけらはエネルギーの大津波となって〈センチネル・シグマ〉を洗い、その火炎でヴォイド・シールドを故障させ、破壊の範囲内にいたあらゆる艦艇を燃やし尽くしてしまった。このエネルギーの大嵐をしりめに、スペースマリーンたちは揺るぎない憤怒とともに押し寄せ、宇宙魚雷と突撃衝角が揺動する〈センチネル・シグマ〉に炸裂すると、サンズ・オブ・メデューサエクソシスト戦団が襲いかかった。すぐさま要塞の広間と通路で、戦闘用サーヴァイターとアストラル・クロウ第二中隊とその隊長である剣の名手コリエン・スマトリスを相手どった死闘が繰り広げられた。
 要塞内での戦闘が燃え上がっていた頃、大戦艦である〈オルドンの剣〉とスター・ファントムの〈死を想え〉が、打撃巡洋艦戦隊を率いて燃え上がり目を潰された宇宙要塞網に超近距離で突撃をかけ、誰一人として逃さない獰猛な乗り込み強襲によって、ひとつまたひとつと落としていった。その一方、ミノタウロス戦団はバダブ第二惑星やライジールといった、この星系にある他の居住天体に荒々しい効率の良さで攻撃を実行していった。ミノタウロスの悪名高い戦団長アステリオン・モロクは、第二惑星の支配層を大聖堂の頂上から吊した。これに先だって彼は、アストラル・クロウのヴァーナ・サビン中隊長を自身のランドレイダー装甲輸送車の正面で串刺しにして、反逆者を待ち受ける運命の見本にしている。
 死骸の山の頂上に立って、サンズ・オブ・メデューサの“鉄の戦士長”ヴェイランド・カルは〈忠誠派〉大本営に向けて〈センチネル・シグマ〉制圧を通信した。そこにオングストロームの〈技術局長〉たちがテレポートによって合流した。彼らはルフグト・ヒューロンとその宮廷が思いもしなかったことを実行した。数時間の内に〈忠誠派〉は要塞の〈シリコンの魂〉(人工知性)を屈服させて、それに従う数多くの機械精霊と平気にアクセスしたのである。宇宙空間全体に不可逆的なオーバーライドと破壊信号が送信された。星系全体を支配しようとする〈総統〉の猜疑心がこのような操作を可能にしてしまったのである。信号に反応してバダブ星系外縁は炎の海と化した。〈鋼鉄の円環〉は粉砕され、もはやバダブ・プライマリスとそれを取り巻く防衛網だけが残されたのである。

最終決戦(913.M41)

 星系が〈忠誠派〉の手に落ちたことに伴って、エクソシスト戦団と〈帝国〉海軍の艦隊が星系を封鎖し、誰も次に起こることから逃げ出せないようにした。一方、残りの艦隊はすばやく展開してバダブ・プライマリスを取り囲んだ。当初、〈猛禽の王〉がこの強襲の先陣を切る予定だったが、恒星核攻撃による消耗のために重大な損傷を受けており、惑星軌道近くでの作戦行動ができないほどエンジンが不安定化していたため、これは見送られた。バダブ・プライマリスの砲撃力は依然として非常に怖れられていたが、スター・ファントム戦団が第一次強襲を率いる栄誉に志願し、受諾された。バダブの大砲をものともせず攻撃の先駆けとなるのは古の大戦艦〈死を想え〉となった。
 急いで修正された攻撃計画では三方面からの攻勢が予定された。というのも、〈忠誠派〉の強襲にとってさらなる危険がハイガード軌道基地という形で存在していたからである。この基地はもともとルフグト・ヒューロンがバダブ・プライマリス地表の〈茨殿〉に入る前に、アストラル・クロウ戦団の要塞修道院として使われていたものだった。スター・ファントム戦団の二個中隊が第一波攻撃の中軸となって、より小規模なファイア・ホークとサンズ・オブ・メデューサの部隊と連携してハイガード軌道基地に強襲をかけることになった。攻撃の第二波はカーチャロドンに任された。彼らは全兵力をもってバダブ・プライマリスの地表積層都市に降下して、あらゆる抵抗を粉砕するのである。最も重要な攻撃である第三波はスター・ファントム戦団の七個中隊を中心として、他の〈忠誠派〉戦団から集めた強襲戦力および異端審問庁のミリタルム・テンペスタス中隊によって構成された。この作戦によって〈忠誠派〉は敵の中核に戦いを挑んで、〈茨殿〉そのものの包囲を敢行する計画であった。
 攻撃に先だって軌道爆撃と軌道上からのデブリ投下が行われて地表に破壊が降りそそぎ、バダブ・プライマリスの上空は砲火によって燃え上がった。セーブル色の〈死を想え〉が先導して大気上層に突入し、惑星地表の兵器群からの猛砲火にさらされた。スター・ファントムのこの大戦艦も大砲と渦動ミサイルによって反撃し、惑星地表に巨大な穴をいくつもうがっていった。頑丈な大戦艦の背後では数十隻の軍艦が低空飛行して兵器をばらまいた。漆黒と冷たい灰色に塗られたドロップポッドが打ち寄せる波や降りそそぐ雨のように精密降下し、空は暗く染まった。そうした攻撃を防ごうと、エネルギーのまぶしい光条が必死に上空に向けて放たれた。カーチャロドンの聖遺物でもある旗艦〈ニコル〉はその巨躯におさめた巨大なプラズマ・デストラクター兵器からすさまじい光線を放つと、バダブ地表の大型塹壕を焼き尽くし、バダブ・プライマリス首都〈ハイブ・ドミナ〉の防壁を打ち砕いた。続いてすぐさまサンダーホーク・ガンシップとセスタス・アサルト・ラムの部隊が防壁の裂け目に殺到した。燃え上がる煙の柱、渦巻く灰の雲、そして息を詰まらせる塵の海が空を黒く染め、強襲とともにバダブの北方大陸に夜のような闇が落ちた。
 〈忠誠派〉の強襲開始からまる一時間が経過した。防御砲台はまだ完全には沈黙していなかったが、その多くは破壊されていた。煙と炎の嵐をものともせずに兵員輸送艇とサンダーホークが降下し、増援部隊と重機甲部隊を地上戦闘の混乱の中に送り込んだ。着陸できるとみて、〈戦機兵団〉の巨船が〈ハイブ・ドミナ〉の郊外に着地すると、その衝撃が大地を揺るがし、その震動ですでに亀裂の入っていた都市防壁がさらに崩落した。ついに皇帝陛下の御業をなすために、巨兵がバダブに歩みを刻んだのだ。巨大な装甲扉が開いて建物をなぎ倒すと、巨兵の大音声が戦場に鳴り響いた。それは包囲された惑星に告げる終焉のラッパであった。
 〈ハイブ・ドミナ〉はたちまちに死の都市と化した。死闘は強襲開始後三時間が経過しても全く衰える気配がなかった。〈総統兵団〉は気が狂ったように、カーチャロドンの灰色の巨人たちに戦いを挑んだ。交通機関の施設が燃えさかる車両と粉砕された瓦礫のよって埋まってしまった今、そこに閉じ込められた哀れな民間人にとって、もう恐ろしい運命を逃れるすべはなかった。そこには恐怖と死しか残されては居なかった。降伏か死かの選択を迫られた兵士たちは、力の限り戦い続けた。しかし、誰にも止められない灰色と赤に彩られたカーチャロドンの大津波は悪夢のような憤怒でもって彼らをなぎ倒し、防衛線を荒々しく切り裂いた。そこにはずたずたにされた死骸と打ち砕かれた兵器しか残されなかった。〈総統兵団〉の指揮系統は、ヴォクス機器から聞こえるのが悲鳴と無駄な命乞いの声だけになる中、崩壊した。なんとか生きのびようとする兵士たちは建物の影に隠れてカーチャロドンの野蛮な強襲をやり過ごそうとしたが、その努力が報われることはなかった。

〈茨殿〉(913.M41)

 〈ハイブ・ドミナ〉の北東に〈茨殿〉はあった。火山性の台地に積層都市よりも高くそびえたつそれは、彫像の建ち並ぶ広場と、防御レーザーと対空砲が無数に埋め込まれた尖塔の群れから成る壮麗な巨大城塞であった。これこそがアストラル・クロウの領域の心臓部であり、〈バダブ総統〉の居処であった。宮殿の中央上空には光り輝くライトニング・シールドが空を圧して張られていた。これは巨大なパワー・フィールドであり、それに触れるものはすべて分解し、上空の軍艦の砲撃すらもなんなく耐える力を持っていた。しかしながら、宮殿外に散らばる広場と砲台はそれほど強固ではなかったため、スター・ファントム戦団が比類の無い正確さとタイミングでそれらに降下すると、彼らのドロップポッドが壮麗な墓所を貫いて落下し、針のようなアウスペクス柱を倒していった。
 スター・ファントムを迎え撃つ猛射にもかかわらず、七百人のうち五百人以上の戦闘同胞が惑星降下を生きのびて、堅く守られた〈茨殿〉の攻略に取りかかった。スター・ファントムは狡猾な罠と堅固な砲台に遭遇し、死闘が展開された。隠蔽された出撃口から飛び出してくるアストラル・クロウ戦団のアサルト・スカッドとの間に激しい白兵戦が発生し、〈忠誠派〉は進むたびに血の代償を払わされた。城塞の防壁を守るべく、地下のバンカーからプレデター戦車とランドレイダー装甲輸送車が吐き出された。しかし、それらはスター・ファントムのデヴァステーター・スカッドの備える同等の火力と、すでに制圧した塔から射撃するドレッドノートによって迎撃された。城塞を取り囲む広大な広場は死闘の舞台となり、攻略戦を血塗られた消耗戦に変えた。というのも、そこでは攻撃側も防御側もほとんど遮蔽をとることができなかったからである。この血なまぐさい攻略戦の形勢が〈忠誠派〉の側にかたむいたのは、ミリタルム・テンペスタス連帯が火山の稜線を登って援軍にかけつけたことで、スター・ファントムが攻勢をかけられるようになったときであった。〈忠誠派〉のターミネータースカッドはスター・ファントム戦団のテレポート誘導装置にねらいを定めると、すぐに地表に解き放たれた。しかし、大軍勢が投入されたにもかかわらず、城塞はまだ健在だった。〈茨殿〉のライトニング・シールドは破られず、〈忠誠派〉の波状攻撃は高所から殺戮の雨を降らせるアストラル・クロウによって何度もはねかえされた。〈戦機兵団〉のリーヴァー級巨兵がサンズ・オブ・メデューサ部隊とともに迫っても、ここを突破することができなかった。〈茨殿〉包囲は深刻な膠着状態に陥ったのである。
 〈ハイブ・ドミナ〉と〈茨殿〉に夜のとばりが落ちる中、死闘と殺戮は衰えることなく続いた。まもなく、戦闘は惑星の積層都市下層や工業地域にまで拡大した。燃えさかる都市から立ち上がる無数の煙が夜を漆黒の闇に閉ざし、軌道上の艦艇のアウスペクスを妨害した。巨兵が崩壊した都市景観を闊歩して、遭遇するあらゆる抵抗を踏みつぶし、工場と居住区域を組織的に粉砕すると、難民と潰走する〈総統兵団〉の兵士たちが恐慌状態で逃げ散った。この長い破壊の夜の間、ルフグト・ヒューロンが何をしていたのか、はっきりしたことはわかっていない。報告によっては〈総統〉は宮殿を守るためにまるでどこにでも現れて、挑戦のうなり声をあげ、敵を引き裂き、その死骸を放り投げたようだし、また別の話によれば、彼は玉座の間にただひとり沈黙して座したまま、灯火のゆらめく中、自らがもたらした破壊を無感動にながめていたという。その真実はどうあれ、はっきりと言えるのは、アストラル・クロウの誰一人として待ち受ける運命に屈しなかったということだ。おのおのは最後まで戦いぬいた。〈茨殿〉で、バダブの積層都市で、軌道上のステーションで、アストラル・クロウは燃え上がる激怒と苦渋に命をなげうったのである。
 強襲二日目の夜明け、カーチャロドン戦団がけりをつけるためにやってきた。最高司令官クランに命じられ、惑星のインフラを攻撃して組織的抵抗を根こそぎにするために、彼らは独自の作戦をたてると、一切容赦するつもりのない手段を実行に移した。都市を守る〈総統兵団〉はすでに壊滅状態で、その積層都市は炎上したが、カーチャロドンは計画の最終段階を続行して強襲チームを積層都市の地下階層に投入した。そして惑星の積層都市に電力を供給し、惑星防衛砲台にエネルギーを送り込んでいた古代の原子地熱反応炉を破壊した。バダブ・プライマリス全土で停電または電力の過供給が起きて混乱に拍車をかけ、まもなくゆっくりと積層都市が震動し、バダブの塔という塔が倒壊し始めた。そして惑星の地殻が裂けた。積層都市全体が地下に口をあけた裂け目に崩落し、そこに溶岩の海が流れ込んだ。カーチャロドンは音も無く整然と撤収し始めた。ついに叛逆のバダブに神なる皇帝陛下の審判がくだされたのである。
 突然の電力の不安定化は、〈忠誠派〉が待ちに待った突破口を作り出した。城塞を守るライトニング・シールドとその他の防衛は、城塞自体の反応炉によって電力供給が再開されるまでのほんのつかの間消失し、スター・ファントム戦団の強襲部隊が低層のバンカー網と地下墓所に突入することを可能にした。ズルカル・アンドロクレス中隊長を先頭に、アサルト・マリーン部隊とターミネーター部隊は城塞と敵の中心部への道を切りひらいた。スター・ファントムの強襲は荒々しく容赦のないもので、その行く手をふさぐ隔壁と防壁はサンダーハンマーによって粉砕された。立ちふさがるアストラル・クロウの熱狂と憎悪は比類がなく、彼らの真紅の血で染め上げられたアーマーにはもはや〈帝国〉の守護者としての忠誠を示すなにものも残されてはいなかった。惑星の都市下層構造での巨大な断裂が古代の地溝帯に沿って縦横に走ると、溶岩と放射能の灰が地上に噴き上がった。バダブ・プライマリスは死につつあった。
 〈茨殿〉では、城壁がとうとう突破され、ライトニング・シールドが崩壊した。スター・ファントムは瓦礫の積み重なる城塞の残骸に突入した。そして暗黒の運命に導かれて、アンドロクレス隊長の分遣隊は、今まさに地下通路を通って惑星から脱出しようとしていたルフグト・ヒューロンそのひととその親衛隊に遭遇した。ヒューロンの一味は地底を通って秘密の脱出艇にたどりつこうとしていたらしい。続いて起こった戦闘は迅速で熾烈なものとなり、スター・ファントムの手勢は一人残らず殺された。しかし、殺害されたスター・ファントムとアストラル・クロウの死骸から戦闘後に回収されたデータに残された映像はこう語っている。アンドロクレス隊長が〈総統〉との一騎討ちで打ち倒され、ヒューロンは敗れた英雄が死んだと思って、その体を傲然と乗り越えていった。
 そのとき、体から命が流れ出る中、決意を固めたアンドロクレス隊長は末期の力をふりしぼって、至近距離からメルタガンの一撃を〈バダブ総統〉に命中させ、致命傷を与えた。メルタの一撃は〈総統〉がいつも着用していた古代のライトニングクロウを暴発させ、凶暴なエネルギーパルスを爆発させた。この爆発は〈総統〉の右腕と右半身を焼き尽くし、彼の燃え上がるアーマーは地面に打ち倒された。それが斃れた隊長のオートセンス機能に記録された最後の映像である。その後すぐにスター・ファントムの後続部隊が広間に入り、血塗られた白兵戦のあとを発見した。そこに残されていた破片と有機物の残骸は後に、〈枢密法廷〉の生物学賢人によって〈総統〉そのひとのものであると確認されている。しかしルフグト・ヒューロンの遺体は発見されず、戦闘の場にいたはずのアストラル・クロウの兵器総監アルメネウス・ヴァルセックスの痕跡も何一つ見つからなかった。だが、バダブ・プライマリス全体の状況が急速に悪化する中、それ以上の調査も〈茨殿〉下層の探検も実行は不可能だった。
 バダブ・プライマリス積層都市の地底奥深くで、反応炉心の連鎖的破壊が限界を超えた。地殻変動と火山噴火が等比級数的な速さで拡大し、バダブ地表での掃討と制圧作戦はすぐに無秩序な退却に陥った。多くは破壊の中に呑み込まれた。〈忠誠派〉と〈分離派〉をとわずありとあらゆる艦艇は必死に脱出をはかった。積層都市に続く混乱と荒廃の中、惑星人口の過半は数日のうちに根絶されると見なされた。廃墟の積み重なる星系自体も混乱をきわめ、〈忠誠派〉の輸送船が〈忠誠派〉の封鎖艦隊によって撃沈される事態も発生した。そんな中、少なくとも一隻の〈歪み〉航行可能な小型船がバダブ星系から〈歪み〉に逃げ込んだと考えられている。後の調査報告には、二百名弱のアストラル・クロウがその船に乗っており、アルメネウス・ヴァルセックスに率いられて、総帥の傷ついた肉体を運んでいた可能性が示唆されている。
 こうしてバダブ戦争は終結した。

(続く)