Augmented Reality

 通称AR。増加現実。2070年の第六世界を特徴づけるキーワードのひとつ。私見ながら、SR3からSR4に移る際に理解すべき最も劇的な変化。本文p.38-39に概説あり。
 かつては、サイバーデッキを使ってマトリックスVR(仮想現実)空間に“入って”いましたが、2064年の第二次クラッシュによってこのVRによるマトリックスは崩壊しました。その後、トランシス・ニューロネット社とエリカ社という二つの企業*1によってワイヤレスなマトリックス(Matrix 2.0)が全世界規模で実用化され、そこで実現したのがARです。

ポップアップする現実

 ARとは、現実に付加・上乗せされる仮想感覚のことです。例えば、ショッピングモールを歩いているときには、周囲の店舗から発信される広告が目の前に出現したり、音声となってヘッドフォンに入力されたり、あるいは匂いや触り心地として感じられたりします。商品に近づけば、その内容と価格がポップアップします*2。頭の中で許可を出せば、その場で金額が口座から引き落とされ、商品を持ち帰ることができます。

PAN……つながる人々

 2070年の人々は、自分が身につけているコムリンクによって、相互に直接、ネットワーク化されています(メッシュ・ネットワーク)。これを旧時代のLANなどに対してPAN(パーソナル・エリア・ネットワーク)と呼びます。PANは自他の装備や周囲にある機器からアクセスされ、人々の五感に逐次ARをもたらします。例えば、ゴーグルやサイバーアイならば視覚に、ヘッドフォンやサイバーイヤーなら聴覚に、グローブなら触覚に、といったように。特別なモジュールを使えば、感情を知覚したり、他人の感覚を受け取ったり、武器や車両を考えるだけで動かせたりできます。また、文字通り相手と“頭の中だけ”で会話することが可能です。この際にはARを使ったデータ参照やレポート提出も同時に行うことができるでしょう。
 また、2070年のハッカー(もはやサイバーデッキは使われないのでデッカーとは呼ばれません)は、こうしたPANにハッキングすることで、秘匿情報を引き出したり、車両や機器を自在に操ったり、果ては直接相手を傷つけたりすることができるのです。もちろんここでもICとの永遠の戦いは繰り返されているわけですが。

タグ貼り

 上記のショッピングモールでの経験を可能にするのは、商品や場所に設置されたRFIDタグ(Radio Frequency Identification tag:電波周波数IDタグ)です。2070年の世界にはこのタグがありとあらゆるところに貼り付けられており、短距離にメッセージを発信する手段として普及しています*3。これは、前述のように商品の内容を表したり、迷子の犬探しのビラ代わりであったり、あるいはギャングの縄張りを表す標識として使われたり、といったように多種多様な用途で使われています。

監視社会

 PANやタグによってつながる新たなネットワーク、マトリックス2.0は非常に便利な日常生活を可能にしてくれますが、同時に個々人の活動の文字通り一挙手一投足を権威筋が監視、記録、管理することができるようにしました。秩序を紊乱する(と当局が判断した)行動は即座に察知され、必要ならばそれこそ瞬時に襲撃、逮捕することができます。2070年のシャドウランナーは、こうした「1984年」的状況をすり抜けていくノウハウを身につける必要があるでしょう。

*1:この二社は現在、ノヴァテク社と合併して新生メガコーポ、ネオネット社になっています。

*2:こうしてポップアップする“アイコン”はアロー(ARO:ARオブジェクト)と呼ばれます。

*3:タグから発信されて、ARとして知覚されるデータはDOT(デジタル・オブジェクト・タグ)と呼ばれます。