ヴァンパイア:ザ・マスカレードのプレイは、ひとつのアドベンチャーは「物語」、キャンペーンは「夜の年代記」と呼ばれますが、伝統的なTRPGとは異なる構造を持っています。
入口から最深部に至る直線的なダンジョン探検や、イベントシーンをたどっていくのではなく、個人的な人的関係や政治抗争、そして絶え間のない〈飢え〉の脅威がからみあって、ヴァンパイアの夜の冒険を成り立たせています。
■核となる関係図
142頁から説明されている「関係図」は、プレイヤーキャラクターであるヴァンパイアたちの間の利害や感情的なつながりの他、NPCである地元の血族たち、そして〈人間性〉の維持に必須な「試金石」である人間たちとのつながりをその端的な内容を示しています。
この関係図はきわめて重要です。これがプレイヤーキャラクターたちの「現状」言い換えれば「日常」を表しているからです。そして、この「日常」が乱されることで、「物語」(アドベンチャー)が始まります。例えば、後援者である参議が失踪した、たとえば、重大なマスカレード違反が発生した、たとえば、第二次審問の脅威が迫った、などなど。
プレイヤーキャラクターは、こうした「日常の乱れ」に対処し、できればその回復を、あるいはアップデートを求めて活動を開始することになるわけです。
■4つのフェイズ
典型的なヴァンパイア:ザ・マスカレードの物語は、4つのフェイズで構成されており、おおよそ2~5回のセッションで決着がつきます。
1.フック(日常の乱れ)
物語は、朋党(プレイヤーキャラクターのグループ)の夜の日常生活がどのようなものであるかを確認するところから始まります。これは関係図の他、キャラクターシートに記されている特徴や技能によって表現されているでしょう。
そして、この日常が乱されます。
- セットアップ:狩りのシーン、あるいは「試金石」との交流シーン
- 非日常への触媒:マウラや侯主からの命令、朋党の版図(縄張り)への直接的な脅威、人間のコネや試金石からの救難信号、など。
2.調査と策略(レッグワーク)
冒険の活動は、情報収集と協力者の確保を中心に回ります。ここでは直線的な進行はあまり有効ではありません。なぜなら、プレイヤーキャラクターはそれぞれユニークな能力や特徴、訓えを持っており、その活用の仕方はプレイヤーの発案によりさまざまだからです。
- 情報収集:犯罪現場で《先覚》や〈探偵〉を使う、都市に棲む動物たちに《獣心》で聞く、〈コネ〉背景や〈先端技術〉を使ってネットワークから有益な情報を見つける、などなど。
- 社交活動:エリュシウム(血族の集会所)に出向いて秘密情報を取引する、氏族間の対立を利用する、情報を得るためにライバルたちに借恩を売る、などなど。
- 血や倫理の代償:あらゆる行動には〈飢え〉や〈汚点〉を得るリスクがある。リスクをとるか、安全をとるかの選択をその都度迫られる。
3.エスカレーション(転換点)
プレイヤーキャラクターが真相に近づくにつれて、危険が増大します。悪役は彼らの行動に気づいて反撃してくるでしょう。それは、直接の武力行使かもしれませんし、政治的なトラップかもしれませんし、あるいはプレイヤーキャラクターが大切にしているもの(試金石や寝処)を狙ったものになるかもしれません。
- ひねり:プレイヤーキャラクターは、「悪役」の主張にも一理あるかもしれない、あるいは雇い主が自分たちを捨て駒として利用していることに気づくかもしれません。
- ジレンマ:すっきりした勝利があり得ないことがわかってきます。例えば、友人を助けるためにマスカレード違反を隠蔽するか、それとも侯主に報告して自分の縄張りの安全を確保するか?、などなど。
4.クライマックスと余波
彼我の緊張は高まり、最終対決に帰結します。これは廃倉庫での直接対決かもしれませんし、社交のさなかでの決闘かもしれませんし、日が昇るまでの間の短い時間で決着をつける競争になるかもしれません。
- クライマックス:狂乱の危険を冒すか? マスカレード違反を冒しかねないパワーを用いるか? 社会的地位や試金石の喪失を賭けられるか?
- 後日談と余波:ヴァンパイア:ザ・マスカレードの物語が単純な「ミッションコンプリート」で終わることはまずありません。たとえプレイヤーキャラクターの「日常」が戻ってきたとしても、彼らの行動による政治的余波、都市の血族の間での地位変動、そしてなにより、彼ら自身の〈人間性〉や試金石への影響が悔恨判定や退潮によって測られます。
■関係図の修正
ひとつの物語(アドベンチャー)が終わったら、関係図を再確認して、現状にあうように修正します。
1.退場した人物をチェック
クライマックスを経た結果として、関係図上にあるヴァンパイアが滅んだり、グールが死んだり、コネや試金石の人間や姿を消した場合、消去せずに赤いバツをつけて残しておきましょう。こうすることで、その人物が退場したことによる恒久的な余波を忘れずにいることができます。プレイヤーが関係図を見るとき、自分の過去の行いによって何が起こったかを目の当たりにするからです。
また、これは「権力の空白」も示しています。バツの打たれた人物に向かってつながっていた矢印は今や宙ぶらりんになっており、他の誰かがつかみとるのを待っているというわけです。
2.関係性の修正(変化した現状/日常)
次に、生き残っている者たちの間で、変化した感情、利害、借恩について、矢印に付記されている語句を書き換えます。
- 語句を見直す:この冒険で朋党とかかわったNPCを全てチェックして、現状に合うようにその関係性の語句を修正します。例えば、「対等なビジネスパートナー」が「寝処を破壊した仇敵」に、「疑わしい」が「恐怖している」に、といったように。
- 借恩のアップデート:ヴァンパイア社会では借恩(恩の貸し借り)は極めて重要な社会的リソースです。これを軽んじる者は破滅します。物語の間に、プレイヤーキャラクターが借恩を売買した場合、「軽い借恩」「重い借恩」といったように、相手のNPCに向けた矢印に明記してください。こうすることで、後の冒険で、誰を頼れるか、誰が頼ってくるか、ということがすぐにわかります。
3.試金石と〈人間性〉の退潮
冒険の結果〈人間性〉が低下した場合、その悲劇に至った変化を関係図に書きこみます。
- 試金石の損害:人間の試金石が身体的・精神的・社会的に損傷した場合、その人物に向けて引かれている矢印を破線やギザギザ線に変えて表します。また、試金石や死亡したり、キャラクターと完全に絶縁した場合は、矢印を切断します。
- 危険な視線:もし冒険の中で、NPCのヴァンパイアがプレイヤーキャラクターの試金石の存在を発見したなら、そのヴァンパイアから試金石に向けて新たな矢印を引きます。これは試金石に迫る将来の危機を暗示しています。
4.権力の空白と新たな競争
冒険の結果として地元の縄張りや役職に空白ができることがあります。関係図を見渡して、その空白を誰が狙うかを決めていきましょう。
- 問題のアセット:プレイヤーキャラクターが勝ちとったり、「権力の空白」となったりした縄張りや役職を関係図に四角形で追加します。
- 新たな競争:こうしたアセットを狙いそうなNPCからの矢印を新たにこのアセットに向けて引き、「狙っている」などの語句を併記します。
5.キャラクターシートによる修正
キャラクターシートの修正も関係図に反映します。
- 経験点の使用:経験点を消費して新たな〈マウラ〉や〈協力者〉、〈従僕〉を得た場合、新たなNPCとしてそれらを関係図に書きこんで、プレイヤーキャラクターとの間に矢印を引きます。
- 背景の修正:逆に、冒険の結果失った背景の示すNPCへの矢印を切断します。また、人間の組織から新たに矢印が引かれることもあるでしょう(メディアの注目を引いた、ハンター組織に気づかれたなど)。
こうした関係図の修正は、ストーリーテラーが単独で行うのではなく、卓の全員で協力して進めましょう。どのように矢印を修正・追加するのか、書き直す語句の内容はどうするか、といったことを相談するのです。こうすることで、ヴァンパイアたちの「日常」がどう変化し、次のセッションではどのような現状からスタートするのかが卓で共有できるからです。
以上、冒険の構造と関係図の重要性を中心に、ヴァンパイア:ザ・マスカレードのプレイについて論じてみました。これが豊かなプレイの助けになれば幸いです。
(了)
