エクスカリバー

 昨晩のwod-jpで話題にあがったので、Green Knight Publishingから出ている「The Arthurian Companion 2nd edition」での解説を訳してみました。

エクスカリバー(カリバーン)と鞘

 アーサーの大剣。不運なことに、マロリーはその起源について二通りの説明をしている。アーサーが石と金床から抜いて王たる権利を証し立てた剣と、湖に現れた謎の腕からアーサーが受け取った剣である(この腕が湖の貴婦人のものであることは明白である)。この二つの事件の間にエクスカリバーが失われたと仮定しなければ(これほど重大な喪失ならばマロリーが言及しないはずはない)、二つの異説のつじつまを合わせる方法がないので、どちらの剣もエクスカリバーであると見なさざるをえない(ジョン・ボアマンの映画『エクスカリバー』ではこれらの異説のつじつまが合わせられている)。
 クレティエン(ド・トロワ)の物語の最終版では、ガウェインがエクスカリボアを腰に帯びている。この剣は鉄をまるで木のように削ることができるのである。このとき、ガウェインは、グイガムブレシルによる謀反の告発に反論するため、エスカヴァロンに赴いたのであるが、これに先だってクレティエンはガウェインがこの旅に自前の物しか携行しなかったと語っている。ガウェインが叔父アーサーの剣を持っていたことはD.D.R.オーウェン(Owen)を困惑させたが、ルース・クライン(Ruth Cline)は、流布本(Vulgate)には別の伝承が語られており、そこではアーサーがガウェインにエクスカリバーを渡し、その後彼はこれを幾度となく使っている、と注記している。流布本ではその後ガウェインはずっとエクスカリバーを用いているようだ。
 マロリー本はこの別伝については全く語っていないが、ガウェインにガラティーンという名前の剣を与えている。このガラティーンが、アーサーが石から引き抜き、その後エクスカリバーを湖の貴婦人から受け取った時、最愛の甥に与えた剣なのであろうか? アーサーがガウェインに与えたのが湖の貴婦人から受け取った二本目の剣であるという解釈では、モルガンがアーサー暗殺のために偽物のエクスカリバーを使ったという出来事と矛盾してしまう。
 マーリンはアーサーに、反逆した王侯らとの戦争の最中、石から引き抜いた剣はどうしても必要なときにしか抜いてはならないと警告している。戦いが劣勢に陥り、アーサーが剣を抜くと、その剣は「光り輝いて敵の目をくらまし、まるで三十本の松明が燃えさかるかのような明るさ」となって戦いを勝利に導いた。
 その後、この剣は光り輝く力を発揮せず、ごく普通の、極めて優れた武器以上のものではなくなっているように見える。しかしながら、(もし石から引き抜かれた剣をアーサーが彼に与えたのであれば)少なくとも一度は三十本の松明ほどにも光り輝いた剣がガウェインに与えられたということからも、ガウェインが太陽神の末裔であるというのは一般的なセオリーであったのだろう。
 流布本ではガウェインはランスロットと戦うときにもエクスカリバーを使っているが、ガウェインの死後アーサーがこれを取り戻したのは明白である。ここでは、マロリー本と同様、最後の戦いの後でアーサーが最後の騎士に命じて湖に投げ入れさせたのはエクスカリバーである。流布本の説明によれば、アーサーはランスロットがこの剣を持てないことを後悔している。なぜなら今やランスロットだけがこの剣を持つにふさわしい人物であるからだ。
 エクスカリバーの鞘は、「黄金と宝石で重々しく」、マーリンの意見によればこの剣十本にも匹敵する価値があるという。なぜなら、この鞘を身につけているかぎり、どれほどの重傷を負おうとも、一滴の血を失うこともないからである。鞘の重要性は、湖の貴婦人から授かった剣がエクスカリバーである説に寄与する。なぜなら、石と金床に埋まっていた剣に専用の鞘があるというのは、この説よりもはるかに説明が困難な話だからだ。アーサーの生涯のかなり早い時期に、モルガンはこの鞘を盗んで湖に放り込んでしまっている。
 十五世紀のカタルーニャ地方の物語「ティラント・ロ・ブランク」では、エクスカリバーはある種の遠見の魔法を有している。自分の大剣をじっと見つめることで、アーサーはいかなる質問者に対しても、中世の宮廷哲学の叡智に富んだ回答を返すことができたのである。ただし、この出来事は、入念にリハーサルが行われたとおぼしき舞踏会について語る段落で現れている。