HeroQuestとCR

 resolution再考(2) - 断片の物置、跡地で指摘されてハタと存在を思い出しました。不義理なことで何ともはやですが。HQ2ndには、CRによるプレイについてのガイドがかなり豊富に載せられていた覚えがあります。そこで積み読の中から掘り出すことにしました。
 しばし読みます……。とりあえず冒頭の所信表明をてきとうに訳してみました。
 ちなみに、HQ2は汎用エンジンになっています。

物語を念頭に置く

HeroQuest2 p.7-8より抜粋

 ゲームを遊ぶのに正しいも間違いもないのですが、このルールシステム全体には物語に基づく一定のロジックが通底しています。従来のロールプレイング・ゲームが仮想の現実世界を再現(シミュレート)するのに対して、HeroQuestは空想の物語を語る技法を模倣(エミュレート)します。
 この区別を理解すれば、あなたはこのゲームを自然な、継ぎ目のないやり方で運営することができるでしょう、このゲームをもっと現実を再現する度合いの高いスタイルで運営することも可能ですが、ある種の極端なケースが勃発したときにいささか苦労することになると思います。この本の目的は、語りのテクニックの中身を説明し、そのはたらきかたをあなたに示すことです。これによって、そのテクニックを模倣したスタイルであなたがゲームを運営しやすくなるはずですし、もしもっと再現の度合いが高いアプローチをあなたが好むならば、自分の好みに合うようにするにはどのくらいそれを修正するべきかということがわかるはずです。たとえば、あなたがファンタジーではなく現代を舞台にしたテンポの速いカンフー映画に着想を得たゲームを運営しているとしましょう。プレイヤー・キャラクターは悪の親玉が操縦するホバークラフトに並行して橋の上を突っ走っています。プレイヤーは自分のキャラクターであるジョーイ・チャンに、ホバークラフトに飛び乗って、悪漢の顔面にこぶしをくらわせたいそうです。あなたはこれを実行するのが彼にとってどれくらい難しいかを決めなければなりません。
 現実再現を重視する従来型のゲームでは、あなたはすでに描写してある内容の物理的制約に基づいて、難易度を決めます。つまり、数や度量衡を使うわけです。すでに橋とホバークラフトとの間の距離は判明しているでしょう。それから定められたルールに基づいて、ヒーローとホバークラフトとの相対速度を考慮に入れるかもしれません。あなたはこうしたデータに基づいてこの壮図の難易度を決定し、それからジョーイの成否を判定するためにあらかじめルールによって定められた判定方法を何であれ使用することになります。もし彼が失敗すれば、あなたはおそらく(着地の失敗によって)彼がどれくらいひどい傷を負ったかを決めるために落下ルールを参照したり、あるいは川に水没してしまったなら窒息ルールを見たりすることでしょう。
 HeroQuestでは、物理的な詳細を判断基準にせず、物語の筋におけるその行動の位置づけに基づいて判断します。あなたは物語上のいろいろな要素を考慮に入れます。彼が成功をおさめればどれくらいエキサイティングか、どの程度の失敗だと現在の進行のペースを鈍くしてしまうか、そしてジョーイが最後にスリリングな勝利をおさめてからどれくらい経過しているか、といったことをです。この上でさらにあなたが参照する点を必要とするなら、現実の生活の中で橋から移動中のホバークラフトに飛び移ったら場合よりも、カンフー映画から着想を引っ張ってきます。その行為がドラマチックになるのがどれくらい難しいのかということが決まったら、物理的な詳細をいろどりとして付け加えます。これはあなたの選択を正当化し、いかにもありそうな説得力を持たせるためです。説得力とはつまり、あなたたちが自分自身にあてて考えれば途方もないようなことを、架空の事実として受け入れられるようにするもっともらしさの幻のことです。もしあなたがジョーイに高い成功率を与えたいなら、橋と船の距離をショッキングなものにしながらも(こうすれば成功がエキサイティングなものになります)、成功の可能性が残されているように描写します。
 言いかえれば、HeroQuestはではまず物語を斟酌した上で難易度を決定し、それからそうした斟酌に合うようにさかのぼって物理的な詳細を描写していくのです。これは作家や脚本家が筋書きを決めるときに用いる方法です。もしこれが映画だったとしたら、脚本家と監督はまず何よりも先に、ジョーイが成功するか失敗するかを決めてしまいます。これは筋書きの構造を定める決定です。つまり、そのシーンがスリリングな船上の戦いに続くのか、それとも意図をくじかれたヒーローがハドソン川の汚水に落下する結果に終わるのかを決定するわけです。この選択をした後で、どのような結果に決めた場合であっても、脚本家や監督はわくわくできるようにそのシークエンスを組み立てます。
 文学作品と映像作品には根本的な違いがあるように、ロールプレイングにも独特のダイナミクスを備えた独特の語り口というものがあります。HeroQuestは、従来の語りの手法で行われてきた決断を模倣しながらも、それをロールプレイングに必要な形に適応させます。その中で最大のものが、あらゆる重要な葛藤(コンフリクト)に不確実性をまとわせる必要です。
 作家や脚本家は読者や観客のために作品をつくります。ロールプレイングでは、ナレーターとプレイヤーは自分自身が観客です。彼らは、私たちがちょうど本を読んだり映画を観たりしたときと同じように、物語中の出来事の結果に一喜一憂できなければなりません。ジョーイがゲーム・セッション中に橋から跳びだしたときには、誰もが一様に固唾をのんで、悪漢をぶちのめすことができただろうかとはらはらしなければいけません。その結果は予測できてはなりません。彼が成功したか失敗したかを決めてしまうのではなく、彼が成功できる可能性をおおまかに決めておいて、サイコロの一振りに最後の決定をさせるのです。
 その上でナレーターであるあなたは、いかにもそれがやむをえないことであるかのように見せながら、どちらか決まった結果を描写します。それから、あなたとプレイヤー諸氏は、自分たちがあやつるキャラクターを介して、次の葛藤のポイントがやってくるまで物語をずっと進めていきます。空想作品の語り口とHeroQuestの“語り”と従来のロールプレイング・ゲームで、障害の作り方と描き方がどのような対照を見せるのかについては、下表「物語のロジック」に示されています。

まとめ:抵抗値を決めてから、それを正当化せよ。
*抵抗値はHeroQuestにおける難易度に相当。

 HeroQuestが採る空想作品の語り方に基づいた考え方を、従来の手法への批判と解釈してはなりません。筆者は両方のスタイルを使って今でもデザインとプレイを続けていますし、どちらにも際だった長所がたくさんあるのですから。
 もしあなたがもっと現実再現を重視するやり方でHeroQuestを使おうとしたとしても、決して「間違った遊び方」ではありません。ただし、その道は茨の道であることを覚悟しておいてください。なぜならあなたはしっかりとサポートされていないかもしれない方向にこのゲームをひねっていることになるからです。

物語のロジック

空想作品の語り口
  • 作劇上の“リズム”は何を求めているか?
    • 成功だ → 複雑化要因をつくりだして、成功がエキサイティングでもっともらしく、辛苦の末達成されたように見せる。
    • 失敗だ → 複雑化要因をつくりだして、失敗がもっともらしく、強く印象に残るように見せる。
HeroQuest
  • 作劇上の“リズム”は何を求めているか?
    • 成功だ → 低い抵抗値を指定する。
    • 失敗だ → 高い抵抗値を指定する。それが物語上でもっともらしく見えるように、タフな複雑化要因をつくりだす。
従来型のロールプレイング・ゲーム
  • どれくらい複雑化要因が存在するのか?
    • 少ない → 低い難易度を指定する。
    • 多い → 高い難易度を指定する。