火星からの復興AAR(3)

恒星間戦争

「希望の星はなかったということか」
 コロニー連合科学執政局長オルテンシア・ディアスは、目の前の人物……調査船ヴァガボンド号船長シオリ・イシカワに向かってもう一度確認した。
「はい、局長。“ヒンターランド”全域に殖民可能な惑星はひとつもありません」
「このヤーモン星系の第3惑星は大陸型惑星と報告にあるが」
石器時代レベルの文明を持つ先住種族が住んでいます。連合の国是では不干渉が定められております」
「………」

 “ヒンターランド”(後背地)とは、プロキオン星系を含むエリウム星雲の先に伸びる、星のまばらな宙域である。サーガス星系の“東”をNetraxi族の共和国が塞いでいることから、執政委員会は逆方向に活路を求めたのである。しかし、その望みは絶たれた。ヒンターランドに有望な資源惑星はいくつもあったが、人類が現時点で住めそうな惑星は見つからなかったのである。そして、細いハイパースペース航路の先には、別の星間国家「グェジボリン盟約」「ピロッコ地域連合」が横たわっていた。宗教国家の彼らは物質主義のコロニー連合使節に疑いの目を向けたという。

 翌日、緊急の執政常任委員会が開かれた。そこで決定されたのは、それまでのコロニー連合の方針を大きく変えるものだった。東進、すなわちNetraxia民主領邦への侵略である。
「戦争を回避するお考えはないのですか。すでに我々は火星に加えてデルファイとシタデルという豊かな故郷を得ました。このまま平和に行くというのは……?」
 常任委員の声に、ディアス局長は首を振った。すでにいくつもの敵対的な種族に遭遇した今、恒久平和の選択肢はありえなかった。

 西暦2222年11月12日。
 かねてより反目していたNetraxia民主領邦とVamax帝国が開戦した機会をとらえて、コロニー連合政府はNetraxiaに最後通牒をつきつけた。連合の進出線上の2惑星を割譲しなければ武力に訴えるとの内容である。Netraxi族はこれを拒絶。サーガス星系で待機していた連合艦隊はただちにNetraxia領内にハイパースペース跳躍し、戦端が開かれた。

 翌年5月。Netraxia首星ネトラクシア沖では、すでに長駆侵攻してきたVamax艦隊と防衛艦隊との戦いが行われていた。コロニー連合艦隊もこれに参戦。挟み撃ちにあったNetraxia艦隊は全滅した。

 ネトラクシア包囲戦は2年以上にわたった。軌道上からの爆撃は着実に地表の防備を破壊し、ダン・ウー将軍率いる太陽系陸軍が降下したときには、すでに抵抗力はほとんど残っていなかった。

 首星陥落によってNetraxi族は屈服。連合の要求通り2惑星を割譲し、1惑星のみの小国に転落した。この直後、NetraxiはVamax帝国(戦後、惑星統合政府と改名)に服属を余儀なくされる。

同化政策、そして


 割譲されたネトラクシアおよびシックス(Shix)の両惑星には、当然ながらNetraxi族が全域に居住している。彼らは被征服民であり、また集産・物質主義をとり、異種族を二級市民扱いするコロニー連合の体制に強く反発していた。両惑星での生産はほとんど無きに等しく、早急な対処が求められた。
 ディアス局長のもとに届けられた案は大きく分けて、奴隷化、強制移住同化政策民族浄化、の4つだった。
 最後の虐殺は論外である。今後の異種族外交に大きな悪影響を与えるからだ。では、奴隷化はどうか。しかるべき総督の管理下におけばある程度の生産力は見込めるだろう。しかし、政情不安要素として残り続ける。

 執政委員会が決定した方針は、強制移住同化政策の併用だった。太陽系、アルファ・ケンタウリ星系、シリウス星系へのNetraxi族移住を順次進めながら、同化政策を実行するのである。悪く言えば玉虫色ともいえる。
 しかし、1年も経たないうちに、この政策は破綻が見えてきた。Netraxia民主領邦への帰属を求める反政府運動が、連合政府の予想以上のスピードで拡大したのである。

 2227年11月にはネトラクシアで大規模な暴動が発生し、採掘ネットワークが破壊された。同化政策が急ピッチで展開されたものの、もはや焼け石に水。Netraxi族の蜂起は時間の問題であった。執政委員会は太陽系陸軍と艦隊の増派を決定する。

 2230年2月。連合領内のNetraxi族が一斉蜂起。各地で陸軍と凄惨な戦いが繰り広げられた。

 火星およびネトラクシアでの反乱は鎮圧されたが、フィリン・マルバ星系は反乱軍に奪取され、「Netraxi連合」として独立を宣言した。いかなる手段によってか、あなどれない数の軍艦をそろえた反乱勢力を鎮圧しなければならない……