スタードライブ

 フラール人の提供した技術は、主に超能力(フラール人はマインドウォーキングと呼んだ)に関するものと、重力工学に関するものだった。
 重力工学の飛躍的発達によって、重力誘導エンジンが発明された。重力誘導エンジンは、進行方向の空間をゆがめることで、乗り物が針路に向かって“落下”するように作用する駆動機関。このエンジンの発明によって、太陽系内の交通は劇的に高速化された。
 人類のダークマター物質反応炉と、フラール人の重力核融合電池、そして重力誘導エンジンが組み合わさって、2160年、最初のスタードライブ(恒星間駆動機関)が発明される。
 スタードライブは、重力誘導エンジンが空間をゆがめるのに対して、空間を“破る”効果を生み出す。宇宙船はこの空間断裂を抜けて“ドライブ空間”と呼ばれる超次元に入り(ドライブ空間の実態については26世紀現在も完全には解明されていない)、何光年も離れた場所に出現する(これを“スターフォール”と呼ぶ)。2501年現在、一回のスターフォールで約50光年を跳躍することができるが、発明当時は数光年に限られていた。
 スタードライブの発明によって、超大国による宇宙開発は恒星間宇宙にも拡大。人類ははじめて太陽系を離れて移住を開始した。この人類の雄飛には、無数の組織や企業が関わったが、その中で後世に多大な影響を及ぼすことになった集団としては、オーラム財団がある。これは、インド・アフリカ連盟出身の科学者ジェフ・センディアに率いられた新興教団。一千名以上の同志らとともにドライブ空間の探索に新たな霊的啓示を求めて、植民星プロフェソミーに本拠を置いて、ドライブ空間技術の研究に専心した。
 2193年、ヴォイドコープ社が最初のドライブ空間通信衛星を開発。植民星間の通信が高速化。この実績と収益によってヴォイドコープ社は拡大の一途をたどる。その子会社のひとつインサイト社(2198年創設)は、恒星間グリッドの開発を開始。グリッド・インターフェースも飛躍的に発達する。
 2218年、初の“フォートレス級”戦艦(全長3キロにも及ぶ超弩級戦艦)が地球軌道上にて建造。超大国は競ってフォートレス艦を作り、その武力を背景に宇宙開発を次々と進行した。